竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「でも、食事を抜くのは身体に良くない。スープだけでも飲まないか。持ってきたから」

「……そこに置いておいてください。あとでいただきます。今日は本当に、眠くて……」

 ふぁとわざとらしいほどの欠伸をしてみせると、イーヴが小さく笑った気配がした。そして、毛布の上からぽんと頭を撫でられる。

「まぁ、たまにはそんな日もあるか。じゃあ、スープはここに置いておくから、あとで食べろよ。エルフェに言えば、温め直してくれるはずだから」

「ありがとうございます」

 毛布越しのぬくもりに、また涙があふれる。声が歪まないようにと祈りながら、シェイラはうなずいた。

「シェイラと別々で眠るのは、久しぶりだな。寂しくなったら、夜中でも来てもいいぞ」

「……っ」

 優しくそう言われて、シェイラは思わず言葉に詰まる。本当なら、いつものようにイーヴのぬくもりを感じながら眠りたい。だけど、今もソフィのことを想っているイーヴと一緒に眠るなんて、もうできない。

 嗚咽が漏れそうになるのを堪えて、シェイラは一度強く唇を噛みしめた。

「うん。おやすみなさい、イーヴ」

「あぁ、おやすみ、シェイラ。よい夢を」

 少し不安定に揺れてしまった声も、眠気のためだと誤魔化せただろうか。もう一度頭を撫でて、イーヴの手が離れていく。

 部屋のドアが閉まる音がして、足音が遠ざかるのを確認してから、シェイラはようやく身体の力を抜いた。そして、毛布越しにイーヴの手が触れた頭にそっと手をやる。

 二度と一緒に眠ることはできない。頭を撫でてもらうことだって、望んではならない。

 久しぶりに一人で眠るベッドは、こんなにも寒々しいものだっただろうか。シェイラは消えてしまったぬくもりを取り戻すかのように、毛布を強く抱きしめた。
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