竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「シェイラ様は何でもない、大丈夫だからと仰って、何も教えてはくれませんでしたけど……」

 エルフェはため息をついてうつむいた。頑なに平気だと言い張るので無理に聞き出すこともできず、それでも放っておくことなどできなくてイーヴに報告に来たのだという。

 一体シェイラに何があったのだろう。困惑した気持ちのまますぐそばのレジスを見上げると、彼は厳しい表情で小さくうなずいた。

「とにかくエルフェは、シェイラ様のおそばに控えていなさい。何かあればすぐに私かイーヴ様に連絡を」

「かしこまりました」

 一礼して部屋を出ていくエルフェを見送って、イーヴは苦い表情でレジスを見た。同じように険しい顔をした彼は、唇を引き結ぶと一度首を振った。



「イーヴ様、何度も申し上げますが、シェイラ様はあの方とは違う」

「だけど……っ」

 レジスの言葉に、イーヴは思わず立ち上がった。握りしめた拳が、知らず震える。

 あの時もそうだった。シェイラと同じようにラグノリアから迎えた花嫁。彼女も最初は怯えていたものの、次第に穏やかな笑みを見せてくれるようになり、イーヴ達に打ち解けてくれたと思っていた。

 だけど、ソフィは死んだ。食事を受けつけなくなり、みるみるうちに瘦せ細って、まるで枯れ木のようになって。

 ドレージアの食事が合わないのか、それとも空気が合わないのかと医師に見せるも、身体はどこにも異常がなかった。それなのに痩せていく彼女が心配で、毎日のように見舞っていたイーヴの行動が彼女を苦しめていたなんて、思いもしなかった。

 本当はずっと竜族が怖かったと最期に彼女が漏らした言葉は、今も忘れることができない。縁あってイーヴのもとに来たのだから、ただ幸せに暮らしてほしかっただけなのに。

 シェイラも心の中ではイーヴに、竜族に怯えているのではないか。ずっと振り払うことのできなかったその思いが、じわじわと胸の奥を侵食していく。
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