竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「シェイラがそうだったように、ソフィも竜族に喰われるつもりでドレージアにやってきた。彼女は俺を含めた竜族のことを酷く怖がっていたけれど、俺はそれに気づけなくて。無理に接触を繰り返した結果、ソフィの心を壊してしまった。その結果、あの子は……」

 言葉を切って、イーヴは唇を噛む。その顔に滲むのは、深い後悔の色。

「シェイラも同じように俺に怯えたらどうしようと、怖くてたまらなかった。だけど、シェイラは俺を怖がるどころか竜の姿さえ好きだと言ってくれた。そのことに、俺がどれほど救われたか」

 耳元でほとんど吐息のような声で囁かれたのは、ありがとうという言葉。どう返せばいいのか分からず黙ったままのシェイラの顔を見て、イーヴは微かな笑みを浮かべた。

「ずっと抑えてきたけど、俺が本当に夫婦となりたい相手はシェイラしかいない」

「でも、ソフィさんは……」

「あの子のことも大切には思っていたけど、シェイラに対するものとは全く違う。言うなれば……妹のような、そんな存在だったと思う」

 つぶやきながら、イーヴの手がシェイラの頬に触れる。いつの間にか涙は止まっていて、目尻に残った雫が瞬きと共にこぼれ落ちた。赤く腫れた目蓋を労わるように撫でてイーヴは小さく息を吐く。

「シェイラのことは、誰にも渡したくない。ずっと俺のそばで笑っていてほしいんだ。形だけの花嫁に満足していないのは、俺の方だ」

 イーヴの指が頬を伝い、耳を掠めて髪を撫でた。するりと指先に髪を絡められて、急に距離が近づいたような気になる。

「辛い生い立ちなのに、シェイラはいつだって明るくまっすぐで。嬉しそうな笑顔が可愛くて、シェイラが笑ってくれるなら何でもしてやりたいと思った。この顔を怖がらないどころか、竜の姿さえ綺麗だと褒めてくれて、本当に嬉しかった。ずっとそばにいたいと、そう思った相手なんてシェイラしかいない」

 指先で何度も髪を優しく梳きながら、イーヴはあふれるほどの想いを告げてくれる。降り注ぐその言葉に、シェイラはこれまでとは違う意味の涙が浮かぶのを感じた。

 だけど、突然イーヴは髪を撫でる手を止めるとうつむいた。伏せられた顔は暗く、眉間には深い皺が刻まれている。
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