竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 次の瞬間、シェイラの身体はイーヴに強く抱きしめられていた。包み込まれるようなぬくもりも、耳元に落ちる熱い吐息も、少し震える腕すら愛おしくてたまらない。同じようにイーヴの背に腕を回すと、抱きしめる腕がさらに強くなった。

「俺も、一人の女性としてシェイラが好きだ。もう手放したくない。ずっとそばにいてほしいと思う。だけどそれでシェイラは平気か?」

 わずかに身体を離したイーヴが、シェイラの顔をのぞき込む。その表情はどこか不安げだ。

「イーヴが何を心配しているのか分からないけど、私だってずっとイーヴのそばにいたいと思ってます」

「俺は多分、シェイラが想像しているより重たい男だ。シェイラにはずっと目の届くところにいてほしいし、俺以外の男と話すことにだって嫉妬してしまう」

 アルバンのところに通っていることすら少し不満なのだと告げられて、シェイラは思わず小さく笑った。

「イーヴが嫌なら、アルバンさんのとこへ行くのは控えますけど」

「いや、さすがにアルバンにまで嫉妬するのはどうかと思うからシェイラの好きにして構わないけど、それくらい面倒な男だってことだ。だから、嫌だと思うなら今この場で俺を拒絶してほしい」

 抱きしめた腕を緩めて、イーヴがつぶやく。逃げてもいいのだと、選択肢を示してくれるのはイーヴの優しさだ。だけどもしもこの腕から抜け出たなら、二人の関係はこれまでと変わらない。そんなことを望んでいないシェイラは、自らイーヴに強く抱きついた。そして、耳元に唇を寄せる。普段なら身長差がありすぎて届かないけれど、ベッドに座ったこの状態なら彼の頭を抱き寄せることだってできる。

「それだけイーヴが私のことを想っていてくれるってことでしょう? 拒絶なんて、しないです。むしろ嬉しくて幸せでたまらないのに」

「そんなことを言ったら、もう二度と手放してやれないけど、本当にそれでいい?」

「イーヴがいらないって言ったって離れない。イーヴは、私が生まれて初めて心の底から欲しいと思った人なんです。重たいというなら、きっと私だって同じわ」

 ぎゅうぎゅうと力を込めて抱きつくと、耳元でイーヴが小さく笑った。吐息まじりの笑い声が甘く響いて、シェイラの心の中にもあたたかいものが広がっていく。

「ありがとう、シェイラ。誰よりも愛しい、唯一の人」

 囁いたイーヴが、そっとシェイラの頬に触れた。見下ろす金の瞳の中に映る自分の姿は、目の腫れた酷い顔をしているはずなのに、とても幸せそうに見える。
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