竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 歩き始めてしばらくしたところで、ルベリアが突然足を止めた。怪訝に思って見上げると、彼女の横顔は少し強張っている。

「ルベリア?」

「嫌なやつがいるわね。場所を変えたいけど……、逃げきれないか。シェイラ、あの女には何を言われても口をきいてはだめよ」

「え?」

 眉を顰めるルベリアの視線の先には、真っ赤な髪をした派手ないでたちの女性が見えた。ルベリアと同じように妖艶な雰囲気だけど、釣りあがった眉は更に気が強そうだ。

 見つめるこちらの視線に気づいたのか、その女性はゆっくりと近づいてくる。周囲を黒い服を着た護衛のような男たちに取り囲まれた彼女は、恐らくいい家の者なのだろう。

「ごきげんよう、こんなところで出会うなんて奇遇ね、ルベリア」

「相変わらず派手ね、ベルナデット。目がちかちかするわ」

「ふふん、この服を着こなせるのは、わたくしくらいのものだから」

 ルベリアの嫌味を受け流して、ベルナデットは妖艶に笑う。少し身動きするだけで濃く甘い香りが漂ってきて、酔ってしまいそうだ。

「あら、そこの地味な子供はだぁれ? あなたも下働きをつけることにしたの?」

 目の覚めるように鮮やかなピンク色をした、ふわふわの羽のついた扇子をぱしりと閉じて、ベルナデットはシェイラを指す。地味だとか下働きだとか、明らかにシェイラを下に見ている発言に、ルベリアが怒りを堪えるように拳を握りしめるのが見えた。

「あたしの大切な友人に失礼なことを言わないで。彼女は――」

「それが、イーヴ様の花嫁?」

 ルベリアの言葉を遮るように、ベルナデットが尋ねる。聞いておきながらきっと確信しているのだろう、真っ黒な瞳はまっすぐにシェイラを見つめている。その視線に含まれた強い嫌悪感に、思わずシェイラは逃げるように一歩下がった。

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