竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい

悪意

「ふぅん、相変わらず人間は貧相な生き物ね。前のと同じでとっくに弱って死んでると思ったけど、おまえは案外しぶといのね」

 頭の先から爪の先まで舐めるような視線を這わせて、ベルナデットは唇を歪めて笑う。こんなあからさまな悪意を向けられたことなど生まれて初めてで、シェイラは萎縮してうつむく。それを庇うようにして、ルベリアが前に出た。



「言葉が過ぎるわよ、ベルナデット。あたしたちの祖先を救ったラグノリアへの侮辱と受け取ってもいいのかしら」

「過去のことなんて、わたくしには関係ないもの。イーヴ様はね、将来はこのドレージアを背負って立つ方なのよ。こんな貧相で軟弱な生き物の世話に追われるなんて、あってはならないのよ」

 ルベリアの言葉を鼻で笑って聞き流し、ベルナデットはシェイラをにらみつける。

「目障りだわ、どうしてこんなところを出歩いているの。せめて愛玩動物らしく、檻の中でおとなしくしていればいいものを」

 吐き捨てるようにそう言ったベルナデットは、隣に控える黒服の男にちらりと目をやった。それに反応して、男がシェイラに近づいてくる。

「ちょっと、何をする気?」

「必要ないものは、排除すべきだわ。そもそもわたくしは、ラグノリアから花嫁を迎えるという慣習自体、不要だと思っているもの。イーヴ様には、もっと相応しい相手がいるはずでしょう」

「それがあなたでないことだけは確かね、ベルナデット」

 守るようにシェイラの手を引いて、ルベリアが冷たい目でベルナデットを見る。ルベリアににらみつけられて、黒服の男は足を止めた。どうやらルベリアを押しのけてまでシェイラに近づくことはできないようだ。

「あなたの奔放なふるまいには、皆うんざりしているのよ。目に余るようなら、お祖父様に報告するわよ」

「ルベリアのその馬鹿みたいに真面目なところ、わたくし大っ嫌いだわ。そのちっぽけな人間が竜族の花嫁となるのを不快に思っているのは、わたくしだけではないのよ。そのことを、よく覚えておくのね」

 苦々しい口調で吐き捨てると、ベルナデットはくるりと踵を返した。最後にシェイラを憎しみのこもった目で射貫くように見つめたあと、彼女は黒服の男たちに囲まれて立ち去った。
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