竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 見渡す限りの青空の中、宙に浮かぶ巨大な都市。木々に囲まれた都市の中心部にはいくつもの立派な建物が見えて、そこから時折竜が空に向かって飛び立っていくのが見える。生まれ育ったラグノリア王国よりも遥かに大きなその空中都市に、シェイラは見惚れる。

「すごい……、綺麗」

 ため息のような声を漏らすと、竜が微かに笑ったような気がした。

「我が竜族の国、ドレージアへようこそ」

 その声は優しくて、まるで歓迎されているかのように思ってしまいそうだ。ふいにこみ上げた涙を吹きつける風のせいにして、シェイラは何度か瞬きを繰り返す。

 泣きそうになったことに気づいたのか、竜はシェイラを振り返ると微かに眼を細めた。

「そういえば、名前を聞いてなかったな。俺は、イーヴだ」

「イーヴさん」

 思わず復唱するように名前を呼ぶと、竜は鼻息ではふっと小さく笑った。

「イーヴでいい。それで、俺は何と呼べばいい」

「あ、私は……シェイラ、です」

「シェイラか。いい名前だ」

 竜が――イーヴが優しい声でそう言う。

 名前を褒めてもらったのなんて生まれて初めてで、胸が苦しいほどに嬉しくなる。ほとんど誰にも呼ばれることのなかった名前が、急に大切なものになったような気がした。

 今までシェイラの世界は自室の中がほとんど全てで、こんなにも遠くまで広がる景色を見たことがない。

 喰われる前にいいものを見せてもらえたなと、シェイラは美しい光景を目に焼きつけるように見つめた。 
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