竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 強く目を閉じて恐怖に耐えていると、やがて指先は離れていった。恐る恐る目を開けると、ベルナデットは嘲るような笑みを浮かべていた。

「……やっぱりね。そんなことじゃないかと思ったのよ」

 何故か機嫌をよくしたベルナデットは、くすくすと笑いながらシェイラを見下ろす。

「おまえ、イーヴ様に愛されているとでも思ったの? 人間なんてどうせすぐに死んでしまうんだから、せめて優しくしてやろうという慈悲を勘違いしてしまったのね。哀れだわ」

「そんな、こと」

 ないと言い切りたいのに、突きつけられた扇子がシェイラから言葉を奪う。

「人間とは、本当に愚かで可哀想な生き物ね。ここでは竜族の保護なしでは生きていくことすらできないからって、イーヴ様に必死で媚びてバングルを与えてもらったの?」

「違う、これは……」

「おまえ、イーヴ様に抱いてもらっていないでしょう」

「……っ」

 憐れむように笑うベルナデットの言葉は、シェイラの胸に深く突き刺さる。反論できないシェイラを見て、彼女は嘲るように笑った。

「イーヴ様はね、わたくしのものなの。おまえが生まれるずっと前から、わたくしたちは将来を誓い合っているのよ」

「……そんなの、嘘」

「嘘なものですか。その証拠に、おまえの首には番いの証がないもの。イーヴ様が本当におまえを花嫁として思っているなら、そこに証があるはずでしょう」

「番いの証?」

 とんとんと、扇子がなぞるようにシェイラの首を指す。初めて耳にする言葉に眉を顰めたシェイラを見て、ベルナデットは更に笑みを深めた。

「まぁ、おまえ、番いの証のことも知らされていないの? 本当に言葉だけで信じてしまうなんて、おめでたい頭をしているのねぇ。竜族は、唯一の伴侶と決めた相手の首に証を残すのよ。それがおまえの首にないということは、イーヴ様がおまえを唯一と思っていないことの何よりの証拠でしょう」

 高らかに笑ったベルナデットは、ぐっと顔を近づけてシェイラの目をのぞき込む。
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