竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい

いつだって守ってくれる人

 庭らしき広い場所で竜に姿を変えたイーヴは、シェイラを背に乗せた。

「早く帰ろう。しっかり掴まっててくれ」

「うん……」

 イーヴのたてがみに頬を寄せて、シェイラはうなずく。まだ恐怖の名残で身体は震えているけれど、イーヴのぬくもりに触れていたら、少しだけ落ち着けるような気がする。

 だけど、ベルナデットの言っていた番いの証のことがシェイラの心の中に暗い影を落としていた。

 恐らくは竜族にとって特別な意味を持つそのしるしを、シェイラはもらっていない。イーヴが頑なに一線を越えようとしないことも、シェイラが彼の唯一でないことを示しているような気がして苦しい。



 囚われている間にとっぷりと日は暮れていて、星の瞬く中をイーヴは滑るように飛んでいく。以前に、湖面に星が映るのを見に行こうと約束したことを思い出して、シェイラは小さくため息をついた。こんな形で再び空を飛ぶことになるとは思わなかった。

「今度は、星を見に行こう。前に約束しただろう」

 同じことを考えていたのか、イーヴがちらりと眼だけでシェイラを振り返った。

「こんな形で俺と空を飛んだことを、覚えていてほしくない。幸せな思い出で上書きしよう」

「うん、ありがとう」

 思わず滲んだ涙を隠すように、シェイラはイーヴのたてがみに顔を埋めた。こんなにもイーヴは優しくしてくれるのに、それだけでは足りないと思う自分が、酷く浅ましいものに思える。

 番いの証をほしいのだと願ったら、優しい彼は受け入れてくれるだろうか。

 夜空を見上げながら、シェイラはぼんやりとそんなことを考えていた。
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