竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「前にも、こうしてシェイラの指にキスをしたことを覚えてる?」

「えぇと、怪我をした時のことですか?」

 思い出しつつ首をかしげると、イーヴがうなずいた。

「そう。あの時も、無意識にシェイラに保護魔法をかけた。早く傷が治るようにと、なんとなくおまじないのような意味合いで」

 あの日を思い出すように、イーヴは穏やかな笑みを浮かべた。

 竜族にとって保護魔法はラグノリアが思うほど特別なものではなく、親が子に幸運を祈ってかけるくらいに身近なものだという。同じような意味合いでイーヴもシェイラに保護魔法をかけたと知らされて、シェイラはくすぐったい気持ちになる。



「おかげで傷の治りが早かったのかも」

「それだけじゃない、保護魔法はどうやら本当にシェイラを守ったんだ」

「そうなの?」

 もう傷跡すら残っていない指先を撫でて、イーヴもうなずく。 

「ルベリアからシェイラとはぐれたと連絡があって、探しに行こうとしていた時にシェイラの声が聞こえたような気がして。それは恐らくこのバングルのおかげだったとは思うんだけど」

「そっか、イーヴの鱗から作ったバングルですもんね」

「うん。だからそれを頼りに探したら、ベルナデットの屋敷にいることが分かった」

 シェイラの左腕にあるバングルに触れながら、イーヴはあの時のことを思い出したのか顔を顰める。

「思い出したくもないが、あの時……淫紋をつけられそうになっただろう」

「うん、だけど何かが弾けたような音がして……」

 シェイラは眉を寄せつつ記憶を辿る。必死に抵抗していたのは確かだけど、シェイラが何かしたわけでもないのに淫紋札を貼ろうとした男は手を傷つけていた。

 そのことを説明すると、イーヴもうなずいた。

「それが保護魔法だ。シェイラを守ろうと、魔法が発動したんだ。あれがなかったらと思うと、恐ろしくてたまらない」

「やっぱり、イーヴが守ってくれたんですね。ありがとう」

「怖い目には、遭わせてしまったが」

「大丈夫です。だけど、まだ少し不安だから……抱きしめてくれると、嬉しいです」

 そうねだると、イーヴはもちろんだと笑ってシェイラを抱き寄せた。

 ぬくもりに包まれる幸せを感じながら、シェイラは彼の首筋にちらりと視線を向ける。唯一の伴侶と決めた相手の首に、竜族が残す番いの証。彼にとってシェイラは、唯一ではないのだろうか。人間であるシェイラは、竜族の番いにはなれないのだろうか。

 不意につんと痛んだ鼻を誤魔化すように、シェイラはイーヴの胸元に頬をすり寄せた。
< 173 / 202 >

この作品をシェア

pagetop