竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「あのね、もしもシェイラが番いの証をもらったら、あなたは人としての寿命を捨てることになるの」

「人としての……?」

「そう。竜族同士の場合はお互いの血を交換するんだけど、シェイラの場合はイーヴから竜族の血をもらうことになるわ。そうしたらあなたは、あたしたち竜族と同じ長さを生きることになる。それがどういうことだか分かる?」

 ルベリアの問いに、シェイラは首をかしげて考え込んだ。何か身体に不都合が出たりするのだろうか。

 しばらく黙りこくっても答えの出なかったシェイラを見て、ルベリアは微かに眉を下げて笑う。

「この先、八百年ほどを生きることになるのよ。それは、シェイラにとって途方もなく長い時間でしょう。ラグノリアのあなたの家族だって皆、先に死んでしまう」

「そんなの……、平気だわ。ずっとイーヴと一緒にいられるなら、人としての寿命なんて、いつでも捨てられる」

 シェイラはゆっくりと首を振った。成人を迎えたあの日、シェイラは全てをラグノリアに置いてきた。妹のマリエルのことだけは少し気がかりだけど、彼女はきっと幸せに暮らすだろう。



「イーヴは、怖いのよ。シェイラが本当に自分を受け入れてくれるのか、まだ迷ってる。だから、番いの証のことだって言い出せずにいるのよ」

「私には、イーヴしかいないのに」

「ふふ、そうね。鱗で作ったバングルまで渡しておいて何を怖気づいているのか分からないけど、シェイラのことが大切でたまらないのよ。それだけは信じてあげて」

 優しく笑ったルベリアに笑顔を返して、シェイラはイーヴのくれたバングルにそっと触れる。青く光るその色を見ると、シェイラはイーヴに会いたくてたまらなくなる。早く抱きしめてもらって、あのぬくもりに包まれたい。シェイラがどこよりも安心できる場所は、イーヴの腕の中なのだから。

「私がお願いしたら、イーヴは番いの証をくれると思う?」

「きっとね」

 大きくうなずいて、ルベリアは笑う。

「イーヴってばあんないかつい顔しておきながら案外慎重だから、シェイラから動いていかないと変わらないかもしれないもの。またベルナデットみたいに妙なこと考える輩が出てくる前に、シェイラをしっかりとイーヴのものにしておかなきゃ」

 力強いルベリアの言葉に、シェイラはうなずいた。

 どうかうまくいきますようにと願いを込めて、シェイラは左腕のバングルにそっと口づけた。
< 177 / 202 >

この作品をシェア

pagetop