竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「イーヴにね、お願いがあります」

「お願い?」

 首をかしげるイーヴに、シェイラは笑いかける。

「あのね、番いの証を……欲しいの」

「番いの、証。……本当に? シェイラは本当に欲しいと思うのか」

 小さく息をのんでシェイラを見つめ返すイーヴの表情は、恐ろしいほどに真剣だ。その奥に微かに怯えの色が混じっていることに、シェイラは気づく。

「イーヴのことが好きなの。この先もずっとよ。もう離れたくない。私はイーヴとは違って、このままだとすぐに年老いて死んでしまうわ。そんなの、嫌なの」

「だけど、本当に分かってるのか? 番いの証を刻めば、シェイラは人間でなくなるんだぞ」

「イーヴのそばにいられるなら、人間であることに何の未練もないです」

 問い詰めるように肩を掴むイーヴに、シェイラは笑ってみせる。

「だけど、もしも番いの証を刻んだら」

 シェイラの肩を掴んだまま、イーヴはうつむいて絞り出すようにつぶやく。

「シェイラは、寿命が延びることになる」

「うん、分かってます。成人したら死ぬ覚悟で生きてきた私にとって、長生きは夢だったんですよ」

「少しじゃない、数百年単位で増えることになるんだ。シェイラにとっては、気の遠くなるほどに長い時だ」

「イーヴと同じくらい長生きできるんでしょう。この先数百年もずっと一緒にいられるなんて、幸せだわ」

「それだけじゃない、俺の――竜族の血をシェイラに与えることになる。きっと、シェイラの身体にも鱗があらわれると思う」

「ふふ、それは初耳だったけど、すごく素敵ですね。イーヴと同じ青い鱗だといいな」 

「……っ、番いの証を刻むには、シェイラの首に噛みつく必要がある。痛みはないと思うが……」

「平気。イーヴになら、何をされても大丈夫。痛いのだってどんとこいです」

「だけど、血だって出る」

「怖くなんてないわ。このまま私が先に年老いて、死んでしまうことの方が怖いの」

 肩に置かれたままの手に自分の手を重ねて、シェイラはイーヴの顔をのぞき込んだ。
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