竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 そっと首筋に唇を寄せて、シェイラはまず軽く吸いついてみた。急所ともいえる場所をこんなに無防備に晒してくれるのは、それだけ信頼されている証だなと嬉しくなりながら、痕を残すように何度も吸いつく。筋張った首筋は皮膚が薄いのに、筋肉のせいか硬くてうまく痕を残せない。なんとか少しでも、と苦闘していると、くすぐったいのかイーヴの肩が震えた。

「難しいか。場所はそこで構わないから、ちょっと歯を立ててくれ」

「だって、痛いですよ」

「大丈夫だ。それに、シェイラがくれる痛みなら嬉しい」

 思い切って嚙みつけと言われて、シェイラは恐る恐る彼の肌に歯を当てる。だけど弾力のある筋肉がしっかりと受け止めて、歯型すら残らなさそうだ。

「無理……イーヴ、硬いもん」

「褒められてると受け取ればいいのか、それは」

 苦笑しながら、イーヴは分かったとうなずいた。そして自分で首筋に爪を立てると、小さな傷を作った。微かに血が滲んだ傷口を確認して、シェイラにそこに口をつけるよう促す。

 シェイラは傷口をじっと見つめると、その傷を癒すようにそっと舌先で舐めた。血の味は分からないけれど、シェイラが触れた瞬間イーヴが小さく息を詰めた。

「シェイラ、傷口を吸って。きっとそれで番いの証が……」

 イーヴの指示に従って、シェイラは傷口に唇を押し当てると強く吸い上げた。その瞬間、先ほどイーヴに首を噛まれた時と同じような強烈な感覚が背筋を駆け上がっていく。

 すぐそばで、イーヴも何かに耐えるように小さく呻いた。

「身体が……熱い」

「大丈夫だ、じきに落ち着く」

 深く息を吐いたイーヴは、安心させるようにシェイラの身体を抱きしめる。彼の言葉通り、しばらくすると体内の熱も落ち着いて、重怠かった手足も動くようになってきた。



「ありがとう、シェイラ。これで俺たちはずっと一緒だ。もう二度と、離さない」

 そう言ってイーヴが再び首筋にキスを落とした。うなずいて笑いながら、シェイラもイーヴの首筋へと顔を寄せる。同じように口づけをしようとしたら、傷のあったはずの場所に青い痣が浮き上がっていることに気づいて目を瞬いた。
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