竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「竜族は、これから先もずっとラグノリアを守るわ。そして、そのために生贄を捧げる必要はないと伝えにきたの」

「生贄が必要ない……。本当に?」

「うん。その証に、これを」

 シェイラは、すぐそばでじっと待っているイーヴに近づくと、首元の鱗を一枚取った。青く光る鱗は、シェイラの手のひらよりも大きい。

「竜の、鱗?」

「これまでに捧げられた生贄への感謝を込めて、この鱗を竜族から贈るわ。聖女であるあなたなら分かるでしょう、この鱗にどれほど強力な保護魔法が込められているか」

 差し出された鱗を、マリエルは震える手で受け取った。恐る恐る検分するように撫でた彼女は、小さくうなずく。

「確かに、強力な保護魔法を感じるわ。これがあれば、国の結界は今よりずっと安定する」

「きっとマリエルの負担も減るでしょう。だからもう、生贄なんて必要ないの。竜族は、とても心優しい種族よ。人を喰ったりしないし、私のことも大切にしてくれる」

 穏やかに微笑むシェイラの表情を見て、マリエルもそれが真実であると理解したのだろう。だけど、その表情はあまり晴れない。

「それなら、お姉様は……戻っては来られないの? 生贄が必要ないというなら、お姉様も」

「私は、ラグノリアには戻らない。これから先も、竜族の国で生きていくわ」

「でも、それじゃあまるでお姉様の代わりにこの保護魔法を手に入れたみたいだわ……そんなのって」

 泣き出しそうに顔を歪めるマリエルは、やはり優しい子だ。その優しさを嬉しく思いながら、それでもシェイラは首を振る。

「大丈夫。私は今、すごく幸せだから。元気でね、マリエル。これから先もずっと、あなたたちを見守ってるわ」

 最後にぎゅうっと抱きしめて、シェイラはマリエルから離れた。自分と同じ顔をした妹は、今のシェイラと同じくらいに元気そうだ。きっと幸せにやっているのだろう。微かに目立ち始めた彼女のお腹にそっと触れて、シェイラは祈るように目を閉じた。
< 189 / 202 >

この作品をシェア

pagetop