竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 木陰でうしろからイーヴに抱きしめられるように座って、シェイラはもらったばかりの本を開く。わくわくしながら読み進めていたものの、背中に感じるぬくもりと頬をくすぐる風、それから髪を梳くように撫でる手が心地よくて、いつしかシェイラはぐっすりと眠っていた。

「ん……ごめんなさい、すっかり寝ちゃってた」

 目を擦りながら見上げると、イーヴの小さな笑い声が降ってきた。冷えないようにと彼の羽織ったマントに包まれていて、そのあたたかさに幸せな気持ちになる。

「よく眠ってたな。昨日はちょっと寝つきが悪かったからな、そのせいかもしれない」

 ラグノリアに行って別れを告げてくることはずっと前から決めていたけれど、それでも少し緊張していたのか昨晩はあまり眠れなかったのだ。隣で眠っていたイーヴには、気づかれていたらしい。

「イーヴに抱きしめられてると、あったかいから眠たくなっちゃった。でもイーヴは動けなかったですね、ごめんなさい」

「問題ない。シェイラの可愛い寝顔を見つめてるだけで楽しかったよ」

 甘い表情でそう言われて、涎を垂らしたりしていなかっただろうかとシェイラは慌てて口元を押さえた。

 そんなシェイラを見てくすくすと笑いながら、イーヴがこめかみにそっと唇を押し当てた。

「シェイラに渡したいものがあるんだ。誕生日のお祝いに」

「もうたくさんもらってるのに」

「プレゼントは、いくつあっても構わないだろう。シェイラが今まで誰にも祝ってもらえなかった分、俺がたくさん祝いたいんだ」

 大きくてあたたかな手がそっと頬を撫でたあと、シェイラの左手を取った。

 誕生日を祝ってもらえなかったことを悲しいと思ったことすらなかったけれど、今年からはシェイラにとって特別な日だ。自分の生まれた日であり、故郷のラグノリアに別れを告げた日。ある意味、竜族と共に生きていくことを決めた新たな誕生日なのかもしれない。

 そんなことを考えていると、左手の薬指に何かが滑らされた。
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