竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 背後でイーヴが身じろぎする気配を感じて、シェイラは読んでいた本を閉じると彼を振り返って見上げた。

「おはよう、イーヴ」

「あ……ごめん。今度は俺が寝てたな」

「大丈夫ですよ。本当は膝枕とかしたかったんだけど、重たくて無理でした」

「シェイラを抱きしめてるとよく眠れるから、つい」

「私もイーヴに抱きしめてもらうとよく眠れるから、一緒ですね」

 くすくすと笑いながら、シェイラはゆっくりと立ち上がった。空が赤く染まり始めていて、まもなく陽が落ちそうだ。微かに瞬き始めた星に誘われて、光虫がふわふわとあたりを漂い始める。虫と呼ばれているものの生物ではなく、日暮と共に淡く輝きながら何をするでもなく宙を泳ぎ、翌朝には塵となって消えてしまうという。

「シェイラ、上着を」

 同じく立ち上がったイーヴが、うしろから上着を着せかけてくれた。イーヴに抱きしめられていたから気づかなかったけれど、随分と気温が下がってきている。 

 ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込んで、シェイラは上着をしっかりと羽織る。



「そろそろ湖の島に向けて出発しようか。夕食までには戻らないとな。アルバンが張り切って支度をしてるはずだ」

「うん。星、見えるかな」

「今夜は天気がいいから、きっとな」

 くしゃりと髪を撫でたあと、シェイラの手を取ってイーヴが歩き出す。出発するのかと思いきや、彼はそのまま花畑の方へと向かった。
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