竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 やがて前方に、以前にも来た大きな島が見えてきた。濃紺の夜空に、大きな山のシルエットがぼんやりと浮かび上がっている。

 広い湖の水面は、まるで鏡のように夜空を映し出していて、境目が分からないほどだ。

「わ……ぁ」

「あんまり身を乗り出すと落ちるぞ。島に上陸するまでおとなしくしててくれ、シェイラ」

 イーヴの声に、身を乗り出していたシェイラは慌ててしっかりとたてがみを掴んで姿勢を正す。

 滑るように島に上陸したイーヴは、シェイラを下ろすと人間の姿に変わった。

「寒くないか」

 聞かれて平気だとうなずこうとした瞬間小さなくしゃみをしたシェイラを見て、イーヴが笑う。

「風邪をひいたら大変だ。こっちにおいで」

 促されてシェイラは、地面に腰を下ろしたイーヴの膝の上に座る。彼の羽織ったマントでしっかりと包まれて、あたたかさに思わずため息がこぼれ落ちた。

 そっと握りしめていた花の灯りをカップに挿せば、二人の周囲にほんのりと淡いピンクの光が浮かび上がった。

「せっかくだから、昼に食べ損ねた菓子を食べるか」

「うん。アルバンさんが、クッキー焼いてくれたって言ってました」 

「お茶もまだ冷えてなさそうだな」 

 確認するように保温瓶を開けたイーヴが、カップにお茶を注いでくれる。熱々とまではいかないものの、飲むのにちょうどいい熱さのお茶は、少し冷えた身体を内側からあたためてくれるようだ。

 うしろからしっかりとイーヴに抱きしめられながら、シェイラは湖を見つめた。湖面に映る星空は、時折風で水面が微かに波打つと、まるで流れ星のように揺れる。夜空との境目が曖昧なせいか、地面に座っているはずなのに宙に浮いているような心地になる。

 イーヴがシェイラの方に手を伸ばすと、髪に飾った花の中にいた光虫をそっと取り出して宙に放った。突然広い世界に放り出されて、驚いたように二人のまわりをふわふわと浮いていた光虫は、やがて湖の方へ飛んでいく。水面にも光虫の淡い光が映って、幻想的な光景が広がった。 

「綺麗。いつまででも見てられそう」

「気に入ってもらえて良かった。でも、冷える前に帰るぞ」

「分かってるけど、あと少しだけ」

「じゃあ、これを飲み終わるまでな」

 そう言ってイーヴがお茶のおかわりを注いでくれる。冷えてきた指先をあたためるようにカップを握りしめながら、シェイラはうしろのイーヴにもたれかかった。
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