竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 夜空の広がる湖面に、イーヴの黒い影が映る。あとを追ってきた光虫が光の軌跡を描きながら、星空に紛れて消えていくのを見送って、シェイラはイーヴのたてがみに頬を擦り寄せた。

「本当にありがとう、イーヴ」

「どういたしまして。だけど、誕生日はまだ終わってないぞ」

「うん。でも、あらためてお礼を言いたかったの。私の誕生日も大事な日なんだって、イーヴが教えてくれたから」

「まだまだ祝い足りないくらいだけど、これからも毎年お祝いしよう。竜族は長生きだからな、何百回も祝えるぞ」

「本当ですね。嬉しいな、長生きの夢が叶うだけでなくて、誕生日もその分増えるなんて」

 番いの証をもらって良かったと、シェイラはつぶやいて首筋の痣と胸元の鱗にそっと触れた。そして再びたてがみに顔を寄せると、小さく息を吸った。

「ねぇ、イーヴ」

「うん?」

「私もいつか、竜になれたりしないかな」

「え?」

「ほら、そうしたらイーヴと一緒に空を飛べるかなって」

「そうだな……、さすがに竜化するのは難しいかもしれないけど、でも」

「でも?」

 言葉を切ったイーヴは、ちらりと視線をシェイラの方に向けた。大好きな、丸い月のような金の瞳の中に、シェイラが映っている。

「俺たちの子供は……きっと竜になれると思う。竜族の血は、濃いから」

「子供……」

 小さくつぶやいたシェイラの頭の中に大空を翔ける大小の青い竜の影が鮮やかに浮かび上がる。まるで本当に見たことがあるかのように鮮明なその光景に、思わず息が止まった。



 大きな青い竜のそばにある小さい竜の影は二つ。地上から眩しくそれを見上げる自分の姿も見たような気がして、シェイラは思わずイーヴに強く抱きついた。

「素敵。いつかきっと、そんな日が来ますね。子供の背中に乗せてもらったりできるかな」

「シェイラを背に乗せる役目は、たとえ我が子でも譲る気はないけどな」

 独占欲の強いその発言に、シェイラは笑ってうなずく。

「うん。イーヴがいれば、私はいつだって空を飛べるもの。いつまでも、こうやって背中に乗せてね、イーヴ」

「もちろんだ」

 約束のキスの代わりに、シェイラはイーヴと頬を合わせて笑いあった。

 降るような満天の星の下、青い竜はゆっくりとドレージアに向かって飛んでいった。
< 201 / 202 >

この作品をシェア

pagetop