竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 水差しからグラスに水を注ぎながら、イーヴはシェイラを見つめる。

「シェイラも言うように、結婚にはお互いの間に愛情がなければ意味がない。だからあくまでも形だけの花嫁として、彼女らは過ごした」

「それなら別に、花嫁と名乗らなくてもいいような気がしますけど」

「まぁ、そうだな。ただ、悲しいことに竜族にだって不埒な輩はいる。そういったやつらから守るためには、花嫁として身元を確かにしておくことが必要だったんだ」

「そんな理由があったんですね……」

 納得してうなずいたシェイラを見て、イーヴもうなずく。

「だからシェイラも、俺の花嫁としてここで過ごしてもらうことになる。もちろんシェイラを縛りつける気はないから、もしも誰か好いた男ができたならその相手と結婚をしてくれても構わないが」

 あっさりとそう言われて、シェイラは小さく唇を尖らせた。生贄としての役目を果たせないのなら、花嫁として頑張ろうと思っていたのに。これでは何のためにラグノリアからここへやってきたのか分からない。

「でも、私はイーヴの花嫁としてここへ来たのでしょう? 他の殿方と添い遂げるなんて、そんな失礼なことはしませんよ」

「あぁ、うん。別にそれは例え話だから、無理に誰かと結婚する必要はないけれど。ひとまずは俺の花嫁として過ごしてもらうことになるが、シェイラに何かを求めたりすることはないとだけ理解してくれればいい」

「イーヴには、そういった方はいないんですか?」

 安心させるように笑みを浮かべるイーヴに、シェイラは尋ねた。形式上とはいえ、シェイラを花嫁と迎えることで、彼が想う相手と結ばれないのは申し訳ない。

 小さく首をかしげて見上げると、イーヴは一瞬たじろぐような表情を浮かべた。だけどそれは、すぐに笑みに取って代わる。

「いや、俺にはそういった相手はいない。なんせこの顔だからな、怖がられてばかりなんだ」

 自嘲ぎみに笑うイーヴの瞳はどこか遠く、心の中で誰かを思い浮かべているように見えた。

 イーヴには、誰か想う人がいるのだろうか。

 少し気になったけれど、それを聞くことはできなかった。
< 32 / 202 >

この作品をシェア

pagetop