竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 誰もいない薄暗い廊下を、ランプを手にしてイーヴの部屋を目指す。昼間にエルフェから聞いていた通り、二階の奥の部屋の前で、シェイラは一度深呼吸をした。



 重厚なドアをそっとノックすると、中からイーヴの声がした。シェイラが名乗ると、驚いたような声と共にドアが勢いよく開く。

「シェイラ? どうした、眠れないのか」

 とにかく中に入れと言われて、シェイラはランプの火を消すとイーヴの部屋の中に足を踏み入れた。

 彼の部屋は、シェイラの部屋とはまた違って、黒を基調とした落ち着いた雰囲気の部屋だった。森の木々を思わせるしっとりとした香りが漂っているのは、何かを焚いているからだろうか。

「こんばんは、イーヴ。忙しかったですか?」

「いや、そろそろ眠ろうかと思っていたところだ」

 そう言って彼はソファへとシェイラを誘導する。テーブルの上にはボトルと氷の入ったグラスが置かれていて、ふわりとお酒の香りがした。

「何か飲むか」

 聞きながら、イーヴは部屋に備えつけられたミニキッチンにすでに立っている。小さくうなずくと、程なくしてシェイラの前にことりとカップが置かれた。

「ホットミルクだ。これできっとよく眠れる」

「ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げてカップを口に運ぶと、優しい甘さが口の中に広がった。
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