竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「あのな、シェイラ。そういうことは、本当に好きな相手とするものだ。初めてなら特に」

「そんな人、いないです」

「いつか誰かを好きになるかもしれない。その時まで自分の身体は大切にすべきだ」

 諭すような口調で言われて、シェイラの唇はますます尖っていく。



「好きな人なんて……考えたこともない」

 本で読んだように、誰かを愛することはあるのだろうか。誰かに愛されることはあるのだろうか。

 ぽつりとつぶやいて考え込んだシェイラの頭を、イーヴがぽんぽんと撫でる。

「子供はもう、寝る時間だ」

「だから、子供じゃないですってば」

 むうっと頬をふくらませて言うと、呆れたようなイーヴのため息が重なった。

「シェイラはいくつだ」

「二十に、なったところです」

 成人してるでしょうと胸を張ってみせると、イーヴが少し身を乗り出した。

「じゃあ、俺はいくつに見える?」

 問われて、シェイラは首をかしげつつイーヴの顔を見る。微かに顰められた眉に冷たく釣り上がった瞳。精悍な印象を与える彼は、二十代後半から三十代前半といったところだろうか。

 思ったままにそれを告げると、イーヴは小さく笑った。そして頭をぽんと撫でられて、揶揄うように金の目が細められる。
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