竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 ソファの上で大きなため息を落としたイーヴの耳に、軽やかなノックの音が響く。

「イーヴ、お邪魔してもいいですか?」

 ドアの外から響く明るい声は、シェイラのもの。ルベリアと出かけたと思っていたのだが、帰ってきたようだ。いつの間にか窓の外は夕闇が迫ってきていて、随分と長い間ぼうっとしていたことに気づく。

 慌てて応答すると、ドアが開いてシェイラがひょこりと顔をのぞかせた。その顔に怯えは全く見られないものの、イーヴは彼女の顔を見るたびに、その瞳の奥に恐怖や悲しみが隠れていないかと探してしまう。今のところ、それを見つけたことはないけれど。

「イーヴ、お仕事は終わった? もうすぐ夕食の時間ですよ」

「あ、あぁ、もうそんな時間か」

 色々と考え込んでいたことを誤魔化すように、イーヴは首を振った。シェイラは弾むような足取りで部屋の中に入ってくると、イーヴの手を掴んだ。躊躇うことなく握られたその小さな手のぬくもりに、思わず息をのむ。
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