竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「……イーヴ?」

「怪我を、してる」

 左手の人差し指に、薄っすらと走った赤い線。ナイフで切ったのだろうか。白く柔らかそうな指先に滲む赤は酷く目立って見える。

「あ、やっぱり不慣れだったせいでちょっとだけ切っちゃいました」

「もう血は止まってるみたいだが、念のため包帯を巻いておくか」

 薬と包帯を探して立ち上がろうとしたイーヴの前に、シェイラが焦ったように立ちふさがる。

「え、そんな大げさな! 大丈夫ですって、舐めといたら治りますよ、こんな傷」

「それなら」

 ほとんど無意識のうちに、イーヴはシェイラの指先に唇を押し当てていた。そしてその小さな傷に向けて保護魔法をかける。



 竜族が唯一使うことのできる保護魔法は、地上に住む人間には大いなる力だと捉えられているようだけど、実際のところそれほど役に立つ能力ではない。

 ドレージアを守るための結界にはその力が使われているものの、竜族なら誰もが持つ力なので珍しくも何ともないのだ。だから竜族が表立ってこの保護魔法を使うのは、かつて世話になったラグノリアを守る時だけだ。

 そして、竜族が私的に保護魔法を使うことがひとつだけある。それは大切な相手に捧げるおまじないで、親が子に幸せを祈ってかけるようなものだ。

 効果を期待してかけるわけではなく、ただ愛しい人の幸せと安全を願うもの。竜族の子は、一度は親から優しい口づけと共に保護魔法をかけてもらったことがあるはずだ。イーヴだって、今は亡き両親からそうして保護魔法をかけてもらったから。
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