竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「あのね。私、決めたんです」

 頭を撫でるイーヴの手に自らの手を重ねて、シェイラは微笑む。まっすぐに見つめる澄んだ青い瞳の奥には、何かを決意したかのような強い光。

「決めた……何を?」

「イーヴの妻として愛されるように、もっと頑張ろうと思います」

「え? 愛さ……」

「形だけの妻なんて、嫌なの。これは、ラグノリアのためじゃなくて、私自身の願い。だからね、イーヴに好きになってもらえるように頑張ります!」

「いや、え? シェイラ、それは……」

 思いがけない言葉に動揺するイーヴの手を、シェイラがぐいっと引っ張った。油断していたからかそのまま引き寄せられて、顔が近づく。間近で見つめるシェイラの青い瞳がにっこりと細められたと思った瞬間、頬に柔らかなものが触れた。



 ちゅ、と微かな音を響かせて離れて行ったのは、間違いなく彼女の唇。

「絶対にイーヴにも私のことを好きになってもらうので、覚悟しててくださいね!」

 照れたように頬を染めたシェイラは、笑顔でそんな宣言をするとくるりと身を翻して部屋から出て行った。耳まで真っ赤だったその横顔を見送って、イーヴは呆然とその場に立ちつくした。

 まだ頬に残る柔らかな感触と、彼女の宣言。

 人間は庇護すべき存在で、恋愛対象にはならないはずなのに。

 イーヴが必死で線引きをしたのに、彼女はあっさりとそれを飛び越えてしまう。

「……本当に、何もかもあの子とは違うな」

 ため息まじりにつぶやいて、イーヴは食堂へ向かうべくゆっくりと歩きだした。

 シェイラと顔を合わせる前に、にやけたこの顔を何とかしなければ。








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