ストーカー三昧・浪曲、小話、落語

講談1・お力(14)

お力は膝の力が抜け思わず結城の肩に手を掛けてすがります「結城さん…」その途端に無機質で幻影のようだった廻りの景色が、夜店が立ち並ぶ人々の雑踏が現実としてお力の耳に蘇りました。
「ハハハ。どうした、お力。今夜の俺はやけにお前にもてるな。どうだ、え?このまま菊の井の2階の部屋までいくか?ハハハ」
お力はそれでもまだ肩で息をしながら手を離さずに結城の顔を真剣に見詰めますが「おいおい、羨ましいな、色男は。あれは菊の井のお力だぜ」「あ、ホントだ。ひえ~ちきしょう。驕れ、驕れ。お大尽野郎め」なる通りすがりの男たちの会話に自分を取り戻します。何とも云いようのない、幽体離脱の、魂が〝あくがれ出づる〟ような体験をした直後のこととて、未だ取り乱し気味の観はありましたが…。
「へん、どういたしまして。遣り手や廻し方も通さずに…いくら結城さんたって、お力はそんなに安くござんせん」と、なんとか取り繕ってみせましたがその実内心では『まったく!なんでこうなのよ?!あなたは。あたしを抱きしめてただ〝お力〟と云ってくださればいいじゃないか。あたしがその気になって縋っているのに…』とばかりに本心を爆発させているのでした…。

さあて!(張り扇一擲)お力の有り様の実況中継を醒ますようで甚だ恐縮ですが、万事…いや、お力と一葉とこの〝わたくし野郎〟の三者に於ては、万事すべからく、斯くのごとくである分けですよ……いいですか?お分かりになりますか?お客様。

【嘘のない魂は憧れを、理想を見詰め続けます。お力で云えば結城朝之助を、彼と結ばれた堅い所帯を。一葉で云えばそれだけで食べて行ける、公に認められた立派な作家の地位を、また何よりも心と魂と現実がひとつになった自分自身を。そして(気持ち悪いですが)三遊亭私こと〝わたくし〟で申せば?…はて…。ま、とにかく、そのイメージ像です(やっぱり気持ち悪いよ、俺は〝わたくし〟は女かよ? 😣 )From pixabay, by quanghoanphotosさんの作品】
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