ストーカー三昧・浪曲、小話、落語

講談1・お力(16)

具体的には、菊の井から、酌婦から足を洗いたい更生したい、朝之助と結ばれたいと強く指向しているにも拘らず、それは成らず、痴欲に充ちた酒席の喧騒の中に毎日身を置かねばならなかった。それゆえ鬱屈し、しかし同時にこうなったのも父・祖父から続く因業のせいと自分に云い聞かせて、悟り顔に自分を突き放してしまってもいるのです。この矛盾し鬱屈した身と心を(分けても心を)、その解決を、他人に、朝之助に託しても託された側は受け切れませんね。なぜなら身はともかく心はお力のものであり、お力みずからがその因と業を解決しない限り、誰も助け得ないからです。仮に朝之助がお力を身請けして身(境遇)を助けたとしてもお力が魂の因業を自ら解決しない限り、2人の間には何らかの問題が生じたでしょうし、第一その前にお力自身が身請けを断ったのではないかと見て取れます。なぜと云うにさきほど朝之助から肩をポンと叩かれて覚醒した後の、お力に於ける本心と自我の葛藤の末を見れば明らかでしょう。お力は銘酒屋稼業を忌み嫌いながらも菊の井の華としての自分に自負心があり、上辺では嫌と云いながらも身も世もない呈で自分を求める源七に強く惹かれても居、何より、父・祖父からの因業に〝執着〟があるからです。その辺の有り様は恐らく…一葉が知事となった渋谷三郎からの求婚を断ったことに、あるいは似てはいますまいか…。

【源七と心中した(殺された?)お力のイメージ。上 by OpenClipart-Vectorsさん、下 by endriqstudioさんのそれぞれ作品です。共にpixabay様から拝借しました】


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