失恋

 そして彼女が家に帰った時刻は五時二十分だった。

 女が家に着いた時、女の家族は驚いた。死んだ顔だったからだ。何が彼女を悲しくさせたのか聞いたが、女は答えなかった。悲しかったのもあるが、わざわざ口に出すようなことでは無いと、自覚しているのだ。

「はあ」

 女は溜息を着いた。自分の部屋に入ったのはいいが、ここで何をどうしたらいいのかわからない。泣けば良いのか、恨めば良いのか、怒れば良いのか……

 涙なら学校で思う存分泣いてきた。ただ、まだ心のモヤモヤが取れていないのだ。

「愛菜? いる?」

 と、女の母親が女の部屋に入って行った。

「来ないでよ!」

 女は突き放した。

「一体どうしたの? 何か嫌なことでもあった?」
「放っててよ私なんて」

 女は今自己険悪に陥っているのだ。もう振られた自分に価値なんて無いのだ。そんな自分に人と話す資格はない。

「……私なんて……」

 女はそのままベットに三角座りで、窓の方に向いて座った。外に出る気はない。

「はあ、仕方ないわね」

 と、母親はため息をついて……

「えい!」

 と、ドアを開けた。

「来ないでよ! ママ」

 女は布団を母親に投げつけた。

「やめてよ」
「やめない! もう私なんてこの世にいらないんだ!」

 と、女は自分の顔を殴り始めた。

「ちょっとやめなさい!」

 と、女の母親は女の腕をつかむ。

「なんでよ、離してよ、離してよ!」

 と、女は必死で母親の腕をほどこうと暴れる。

「何があったの? それだけ教えて!」
「言えない。言えないよ大地くんに振られたなんて」
「え? 振られたの?」

 それに対してしまったという顔を見せる。

「それは……知らない!」

 と女は布団に顔を沈める。

「話聞くよ?」
「別に良い、放っておいて」
「分かった」

 と、母親は部屋から出ていく。この場合は一人にさせるのが一番だと判断したからだ。
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