ならば、悪女になりましょう~亡き者にした令嬢からやり返される気分はいかがですか?~(試し読み)
(余計なことを考えても、しかたないわね)

 そっと、自分のドレスを見下ろしてみる。
 最後に新しいドレスを仕立てたのはいつだっただろうか。アウレリアに服飾費はほとんど与えられていないから、母のドレスを仕立て直すしかなかった。
 身を飾るサファイアだって、母が遺してくれたもの。

 継母と異母妹を屋敷に招き入れて以来、父はアウレリアには見向きもしなくなった。
 侯爵家の娘として、必要最低限身なりを調えるのも難しくなっているのを、彼は気づいているだろうか。アウレリアも、新しいドレスを仕立てるためのお金が欲しいと言い出しにくいのは否定しないけれど。

「……アウレリア様、あそこにひとりでいらっしゃるわ」

 不意に耳に飛び込んできたのは、悪気のない年配の夫人の声。
 婚約しているのに、ひとりで壁際に突っ立っているアウレリアはまさしく壁の花。
 そんな彼女の様子が、年配のご婦人達には気になってしかたがないらしい。アウレリアが、未来の王子妃であるならばなおさら。

(王子妃になるのなら、噂されるのは、上手にやり過ごしなさいってことなのでしょうね)

 でも、と心のどこかで考える。
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