ならば、悪女になりましょう~亡き者にした令嬢からやり返される気分はいかがですか?~(試し読み)
 十年ほど前に流行した穀物の病の影響から抜け出すことができず、近年、この国の農業は衰退している。まだ公にはなっていないが、ベリアンド王国の援助により、新たな品種の栽培に取り組むことになっていた。
遊学は表向きのこと、実際には彼がその交渉を任されているのだろう。
 まだ婚約者のいない彼もまた、先ほどまで年頃の令嬢達に囲まれていた。いつの間にここまで移動してきたのか、まったく気づかなかった。

「し、失礼いたしました。まったく気づかず……」

 腰を折り、謝罪の言葉を口にすれば、エルドリックは目を細めた。
 並んで立ってみれば、女性の平均身長よりやや高いアウレリアよりも、彼は頭ひとつ分背が高かった。
 優美な貴公子の印象の強いフィリオスとは違い、よく鍛えられているからか、頑強な印象だ。仕立てのよい夜会服が、彼の体格のよさを際立たせていた。
 騎士団と一緒に訓練をしていると聞いたのは誰からだっただろうか。
 濃い茶色の髪は、今はきちんとセットされているが、おそらく普段は崩しているのだろう。そう思うのは、彼の顔にアウレリアの置かれている状況をどこか面白がっている表情が浮かんでいるからだ。

< 12 / 40 >

この作品をシェア

pagetop