ならば、悪女になりましょう~亡き者にした令嬢からやり返される気分はいかがですか?~(試し読み)
「あれを、放っておいていいのかと聞いたんだが」

 エルドリックが目線で示したのは、リリアンと熱心に話し込んでいるフィリオスの姿である。アウレリアとエルドリックが並んで立っているのは気づいてすらいないらしい。
 見慣れた光景だ。いまさら、傷つくほどのことでもない。

「……しかたがありませんわ。人の心は縛れませんもの」

 アウレリアにできることといえば、なんでもないふりをして肩をすくめるぐらい。エルドリックの灰色の目が、鋭くアウレリアをとらえた。

(……変な気分)

 エルドリックとふたりで会話をするのは、これが初めてである。
 アウレリアが望めばエルドリックと対話する機会ぐらいもうけられただろう。一応これでも、侯爵家の娘で、第二王子の婚約者である。
 だが、客観的に判断すれば、エルドリックは魅力的な男性である。

 それを考えれば、フィリオスという婚約者がいる以上、異性と親しく接するのははばかられた。
 エルドリックの視線は、アウレリアを捕らえようとしているみたいに、アウレリアから離れようとはしない。

「人の心は縛れない、か」
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