ならば、悪女になりましょう~亡き者にした令嬢からやり返される気分はいかがですか?~(試し読み)
 アウレリアの迷いに気づいたように、こちらにわずかに上半身を寄せた彼は、ひそひそと囁いた。

「デュモン侯爵令嬢なら、婚約を迫られることはないだろう。もう、相手は決まっているのだから。それに、隣国からの客人を退屈させないようにするのも、王子妃の役目じゃないか?」
「そうですわね……そういう言い方もできるかもしれませんわね」

 必要以上に出しゃばらないようにはしてきたが、王子の婚約者という立場もある。未来の王族として、賓客をもてなすのも仕事のうちといえなくもない。
 エルドリックは、流れるような仕草で、アウレリアを広間の中央へと連れ出した。

(……踊りやすいわ)

 久しぶりのダンス。しばらく練習すらしていなかった。
 エルドリックとは初めてのダンスだが、婚約者のフィリオスと踊るよりもずっと踊りやすかった。
 エルドリック自身、巧みな踊り手だ。彼のステップに迷いはない。
 アウレリアをターンさせる時、背中に手を添えて引き寄せる時、いかにアウレリアが美しく見えるかを計算し、そしてその通りにやってのける。

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