ならば、悪女になりましょう~亡き者にした令嬢からやり返される気分はいかがですか?~(試し読み)
 それだけならばともかく、フィリオスとリリアンが、逢瀬を重ねているという噂(うわさ)もあった。アウレリアと異母妹の仲がしっくりいっていないのも、不思議ではない。
 だが、その事実について、この場で語る者はいない。皆、口をつぐみ、死者を悼んでいる。
 参列者達は、ひとりひとり、空の棺に一輪の花を投じていく。百合、薔薇(ばら)、菊にカーネーション。そのどれもが白い花だ。

「……彼女は、とても聡明な人であった。会話をかわしたのは一度だが、惜しい人物を亡くしたものだ」

 そうつぶやいたのは、隣国ベリアンド王国の王太子エルドリックであった。
 彼は、この国に遊学のために滞在しているのだが、わざわざ葬儀に参列したらしい。
 エルドリックは白い薔薇を額(ひたい)に押し当て、そしてそれを棺にそっと置く。
 人々の目が、彼に吸い寄せられた。彼の行動は、義理での参加ではなく、本当にアウレリアの死を悼んでいるかのようだ。
 そして、最後のひとりが花を捧げたところで並んで出てきたのは、アウレリアの婚約者であるフィリオスと異母妹のリリアンだった。
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