ならば、悪女になりましょう~亡き者にした令嬢からやり返される気分はいかがですか?~(試し読み)
 そこに立っていたのは、ひとりの女性だった。真っ黒な喪服に身を包み、黒いベールで顔を隠している。ベールの下からちらちらとのぞく唇は、赤く塗られていた。
 ほっそりとした首には、黒真珠のネックレスが巻きついている。白い百合を手に、彼女は一歩一歩、女神の方に歩き続ける。

 歩みに合わせて響くヒールの音。死の天使が、まるでそこに舞い降りたかのようだった。
 集まっている者達は、ただ、歩く彼女を見守り続けるだけ。誰も、口を開こうとはしなかった。

 彼女は真っすぐに棺に近づいた。美しい仕草で、唇に百合を押しつけ、そして無造作にそれを棺に投げ入れる。
 誰何(すいか)の声に、彼女はゆるゆるとベールを上げた。赤い唇の両端が、ゆっくりと上げられる。

「……そうですね、私も、お別れをしたいと思ってまいりましたの――今までの私に」

 もしかすると、彼女の顔が見える前から予期していた人もいたかもしれない。
 現れたのは、本日の主役。亡くなったはずのアウレリア・デュモンの顔。
 美しい顔に、壮絶な笑みを浮かべ、彼女は口を開いた。

「お久しぶりでございます、殿下。ならびに、デュモン侯爵家の皆様」

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