学級崩壊デスゲーム
3年2組
その後、3人で3組を探しきり、隣の3年2組に入る。
「……っ!?」
3年2組に入った瞬間、教室が異様に荒れていることに気づく。
「何これ……」
怯えた表情で私にしがみついてくる美空。
私も彼女の腕に自分の腕を絡ませて、教室をぐるりと眺め回した。
机や椅子は何個か床に倒れているし、黒板には黒板消しで叩いたようなチョークの跡があり、掃除ロッカーからはホウキが飛び出ていて、おまけに生徒用ロッカーからは教科書が乱暴に投げ出されていた。
そのうちの1つを拾い上げると……。
「……先輩?」
部活でよく声をかけてくれた先輩の名前を見つけて、胸が痛くなる。
「許せねぇよ……なんで、2組だけ……」
1冊の教科書を手にしながら、悔しそうに呟く亮くん。
もしかしたら……亮くんの先輩なのかな。
そのとき、美空が不安そうに口を開いた。
「ねぇ……それって、ゲームマスターサイドが、3年2組に強い恨みを持っているってこと、じゃないかな……?」
「っ、それだ!」
亮くんがバッと美空の手を掴む。
「えっ!?」
びっくりした様子の美空は、なんだか少し嬉しそう。
込み上げてきたモヤモヤに蓋をして、美空に「どういうこと?」と問いかける。
「だって……3組と4組は綺麗に整頓されてたし、ロッカーの中も探したけど、ホコリひとつなかった。不登校って言われてる人のロッカーって、普通ホコリとか溜まってるはずだよね?だけどなかったってことは、わざわざ掃除したってことでしょう?」
美空は少し息を吸って、話を続ける。
「それに、2組の人達がいくら気性が荒くて大喧嘩したって、あんなにぐちゃぐちゃになるのはさすがにおかしいよ。誰かしら止めるだろうし、廊下には常に先生が誰かしらいるきまりになってるんだから、気づかないわけないんだよね。あと、黒板にチョークの粉が付いてるのも気になるし……」
そこまで言うと、美空はボッと顔を赤くして、私の後ろにさっと隠れた。
「美空?」
「ご、ごめんなさい、でしゃばって……ごめんなさいっ」
不思議そうな顔をしている亮くんに、美空に代わって私がフォローを入れことに。
「ごめん……美空、あがり症でさ。だけどこういうひらめいたときとかだけは大丈夫になるんだよね」
亮くんはあまりピンときていなさそうな顔で「なるほど……」と呟く。
「とりあえず、さっきの篠山さんの推理、合ってると思う」
私もそう思う。美空の推理で、外れることはあんまりないから。
「3年2組って……去年の秋、1回やらかさなかったっけ?」
うちの学校は、2年から3年へ上がるとき、クラス替えがないんだ。
だから、3年2組が2年生だったとき……つまり、2年2組だったとき、秋に何かあった気がしたんだけど……。
「あっ、あった!」
亮くんが閃いたようにポンっと手を叩いた。
「ほら、9月にさ」
9月……?
なんかあったっけ……?
ううん……と頭を悩ませる。
「とりあえず、片付けながら話そうよ」
気合いが入っているのか、腕まくりをしている美空。
「そうだね」
私も気合いを入れて、教科書を拾う。
ストッカーボックスに教科書やノートを戻していると、亮くんが口を開いた。
「去年の9月にさ、終業式終わりにクラスで体育祭の優勝記念で打ち上げして怒られたって話知らない?」
「あ、聞いたことあるかも!」
2年生がやらかしたっていう噂は知っていたけど、どのクラスかまではわからなかったんだよね……。
「打ち上げは、バレないように隣の市のファミレスでやったらしいんだけど……結局、誰かから通報があって、先生たちが押しかけたんだって」
どうしてそこまで詳しく知っているんだろうと気になったけど、ひとまず亮くんの話に耳を傾ける。
「で、とりあえず学校に連れ戻されて……まだ補導時間じゃなかったみたいだから、体育館に集められて……親に連絡しないといけないから人数を確認してたらしい」
先生たちって、大変だなぁ……隣の市まで行かないといけないなんて……。
「その人数合わせをしてたときに、人が足りないことに気づいたらしい。まぁ、色々事情があるだろうしね。俺の部活の先輩は何人か行ってたらしいんだけど……いわゆる陰キャの先輩たちは行かなかったと言うか、誘われなかったみたいで……」
そう言葉を濁す亮くん。
確かに……体育祭なんか、運動部の方が強いのは当然のことだし、私みたいな吹奏楽部や、美術部が運動できない人が多いのは当たり前。
大して貢献していない人を誘うのは、かなり優しいと思う。
「誘われていなかったのは数人で、運動部の中でも途中で帰った人もいたらしい。結局、コテンパンに叱られたって聞いた」
なるほど……。
「その、誘われてないって人はわからない?」
美空が1冊の教科書を見つめながら口を開く。
「名前見れば思い出すかも……名簿とかないかな?」
教壇の中を探ってみると……。
「あ、あった!」
3年2組、出席簿……多分これだよね。
亮くんに手渡すと、「これだ!志帆ありがと」と笑ってくれた。
亮くんは1人1人、名前に目を通していく。
「読みあげるね。……赤坂律、木下泉……菅生想真、七瀬由香、榎本栞……天沢沙那」
え……天沢……?
まさか……。
「たぶん、お姉さんだと思う」
名前も似てるし、と付け加えた美空。
少し珍しい苗字だし、名前だけ聞いたら姉妹って言い切れちゃうかも。
「この6人だ」
亮くんが名簿を教卓に置いて、黒板消しを手に取る。
黒板に滑らせながら亮くんは口を開いた。
「さっき言った、赤坂先輩は、今病気にかかってて、入院してるって先輩から聞いたことある。誘われてないからって、こんなこと起こすとは思えない」
「私もそう思う」
仕方ないことで怒ってもしょうがないと思う。
でも……それはきっと、私たちのエゴだ。
赤坂先輩には、赤坂先輩なりの考えがあったのかもしれないし……。
「天沢沙那先輩は、元バレー部のエースだったんだけど、原因不明の不登校になったって噂」
不登校……それにも何か理由があるはず……。
「他4人は美術部か帰宅部。だけど、一軍女子の幼なじみや、気に入られてる人は誘われていて、打ち上げにも参加していたらしい」
まぁ、そういうことになりがちだよね。
そうだ。確か吹部の先輩も、バスケ部の子と仲良くしてるって言ってた。
それで誘われたのか……と無意識に納得。
垂れてきた横髪を耳にかけて、作業を再開する。
……あれ?
「あ、宝物」
ノートを拾い上げたときに、ポロッと落ちてきたんだ。
一応、ノートの名前を確認すると……。
「平塚……あおは?」
「あおは?そんな名前の人いたっけ?」
亮くんがこっちに来てくれたので、ノートの表紙を見せた。
「……あぁこれ、"きう"って読むんだよ」
葵羽さんかぁ……キレイな名前……。
名前に"葵"と言う文字が入っているからか、青色の宝石が手のひらでキラキラと輝く。
「結構片付いたんじゃね……?」
確かに。机も綺麗に並べ直したし、教科書もかなり片付いたと思う。
後ろにあった黒板のチョークの跡を消していたとき、黒板の裏に小さな落書きがたくさんしてあるのを見つける。
『H21 卒業しました〜! あやか、えみり、ゆいな』『H27 ↑この落書きをした人と同い年になりました! みんなこうやって卒業していくんだなぁ……改めて、校舎、先生、みんな、ありがとう!』
卒業した人達のコメントだ……。
すごい……。
各年代ごとに一言ずつ誰かしらが書いているみたい。
1番古いのだと……H19……!
「志帆、何してんの?」
不思議そうに寄ってきた亮くんに落書きのことを伝えると、キラキラと目を輝かせて黒板の裏を覗き込む亮くん。
「うお、すげー!あ、これとか、絶対何人かで1文字ずつ書いてるだろ!エモいなぁ……仲良すぎじゃね?いいなぁ〜」
私はとりあえず、チョークの粉を消す作業を再開することに。
黒板消しを手に取り、黒板に滑らせながら、どうしてこのクラスが選ばれたんだろう、と考えを巡らせる。
天沢さん姉妹が、何か鍵になりそう……。
そんなことを思いながら、黒板消しをことんと置いた。
誰かから見られていることも知らずに。
「……っ!?」
3年2組に入った瞬間、教室が異様に荒れていることに気づく。
「何これ……」
怯えた表情で私にしがみついてくる美空。
私も彼女の腕に自分の腕を絡ませて、教室をぐるりと眺め回した。
机や椅子は何個か床に倒れているし、黒板には黒板消しで叩いたようなチョークの跡があり、掃除ロッカーからはホウキが飛び出ていて、おまけに生徒用ロッカーからは教科書が乱暴に投げ出されていた。
そのうちの1つを拾い上げると……。
「……先輩?」
部活でよく声をかけてくれた先輩の名前を見つけて、胸が痛くなる。
「許せねぇよ……なんで、2組だけ……」
1冊の教科書を手にしながら、悔しそうに呟く亮くん。
もしかしたら……亮くんの先輩なのかな。
そのとき、美空が不安そうに口を開いた。
「ねぇ……それって、ゲームマスターサイドが、3年2組に強い恨みを持っているってこと、じゃないかな……?」
「っ、それだ!」
亮くんがバッと美空の手を掴む。
「えっ!?」
びっくりした様子の美空は、なんだか少し嬉しそう。
込み上げてきたモヤモヤに蓋をして、美空に「どういうこと?」と問いかける。
「だって……3組と4組は綺麗に整頓されてたし、ロッカーの中も探したけど、ホコリひとつなかった。不登校って言われてる人のロッカーって、普通ホコリとか溜まってるはずだよね?だけどなかったってことは、わざわざ掃除したってことでしょう?」
美空は少し息を吸って、話を続ける。
「それに、2組の人達がいくら気性が荒くて大喧嘩したって、あんなにぐちゃぐちゃになるのはさすがにおかしいよ。誰かしら止めるだろうし、廊下には常に先生が誰かしらいるきまりになってるんだから、気づかないわけないんだよね。あと、黒板にチョークの粉が付いてるのも気になるし……」
そこまで言うと、美空はボッと顔を赤くして、私の後ろにさっと隠れた。
「美空?」
「ご、ごめんなさい、でしゃばって……ごめんなさいっ」
不思議そうな顔をしている亮くんに、美空に代わって私がフォローを入れことに。
「ごめん……美空、あがり症でさ。だけどこういうひらめいたときとかだけは大丈夫になるんだよね」
亮くんはあまりピンときていなさそうな顔で「なるほど……」と呟く。
「とりあえず、さっきの篠山さんの推理、合ってると思う」
私もそう思う。美空の推理で、外れることはあんまりないから。
「3年2組って……去年の秋、1回やらかさなかったっけ?」
うちの学校は、2年から3年へ上がるとき、クラス替えがないんだ。
だから、3年2組が2年生だったとき……つまり、2年2組だったとき、秋に何かあった気がしたんだけど……。
「あっ、あった!」
亮くんが閃いたようにポンっと手を叩いた。
「ほら、9月にさ」
9月……?
なんかあったっけ……?
ううん……と頭を悩ませる。
「とりあえず、片付けながら話そうよ」
気合いが入っているのか、腕まくりをしている美空。
「そうだね」
私も気合いを入れて、教科書を拾う。
ストッカーボックスに教科書やノートを戻していると、亮くんが口を開いた。
「去年の9月にさ、終業式終わりにクラスで体育祭の優勝記念で打ち上げして怒られたって話知らない?」
「あ、聞いたことあるかも!」
2年生がやらかしたっていう噂は知っていたけど、どのクラスかまではわからなかったんだよね……。
「打ち上げは、バレないように隣の市のファミレスでやったらしいんだけど……結局、誰かから通報があって、先生たちが押しかけたんだって」
どうしてそこまで詳しく知っているんだろうと気になったけど、ひとまず亮くんの話に耳を傾ける。
「で、とりあえず学校に連れ戻されて……まだ補導時間じゃなかったみたいだから、体育館に集められて……親に連絡しないといけないから人数を確認してたらしい」
先生たちって、大変だなぁ……隣の市まで行かないといけないなんて……。
「その人数合わせをしてたときに、人が足りないことに気づいたらしい。まぁ、色々事情があるだろうしね。俺の部活の先輩は何人か行ってたらしいんだけど……いわゆる陰キャの先輩たちは行かなかったと言うか、誘われなかったみたいで……」
そう言葉を濁す亮くん。
確かに……体育祭なんか、運動部の方が強いのは当然のことだし、私みたいな吹奏楽部や、美術部が運動できない人が多いのは当たり前。
大して貢献していない人を誘うのは、かなり優しいと思う。
「誘われていなかったのは数人で、運動部の中でも途中で帰った人もいたらしい。結局、コテンパンに叱られたって聞いた」
なるほど……。
「その、誘われてないって人はわからない?」
美空が1冊の教科書を見つめながら口を開く。
「名前見れば思い出すかも……名簿とかないかな?」
教壇の中を探ってみると……。
「あ、あった!」
3年2組、出席簿……多分これだよね。
亮くんに手渡すと、「これだ!志帆ありがと」と笑ってくれた。
亮くんは1人1人、名前に目を通していく。
「読みあげるね。……赤坂律、木下泉……菅生想真、七瀬由香、榎本栞……天沢沙那」
え……天沢……?
まさか……。
「たぶん、お姉さんだと思う」
名前も似てるし、と付け加えた美空。
少し珍しい苗字だし、名前だけ聞いたら姉妹って言い切れちゃうかも。
「この6人だ」
亮くんが名簿を教卓に置いて、黒板消しを手に取る。
黒板に滑らせながら亮くんは口を開いた。
「さっき言った、赤坂先輩は、今病気にかかってて、入院してるって先輩から聞いたことある。誘われてないからって、こんなこと起こすとは思えない」
「私もそう思う」
仕方ないことで怒ってもしょうがないと思う。
でも……それはきっと、私たちのエゴだ。
赤坂先輩には、赤坂先輩なりの考えがあったのかもしれないし……。
「天沢沙那先輩は、元バレー部のエースだったんだけど、原因不明の不登校になったって噂」
不登校……それにも何か理由があるはず……。
「他4人は美術部か帰宅部。だけど、一軍女子の幼なじみや、気に入られてる人は誘われていて、打ち上げにも参加していたらしい」
まぁ、そういうことになりがちだよね。
そうだ。確か吹部の先輩も、バスケ部の子と仲良くしてるって言ってた。
それで誘われたのか……と無意識に納得。
垂れてきた横髪を耳にかけて、作業を再開する。
……あれ?
「あ、宝物」
ノートを拾い上げたときに、ポロッと落ちてきたんだ。
一応、ノートの名前を確認すると……。
「平塚……あおは?」
「あおは?そんな名前の人いたっけ?」
亮くんがこっちに来てくれたので、ノートの表紙を見せた。
「……あぁこれ、"きう"って読むんだよ」
葵羽さんかぁ……キレイな名前……。
名前に"葵"と言う文字が入っているからか、青色の宝石が手のひらでキラキラと輝く。
「結構片付いたんじゃね……?」
確かに。机も綺麗に並べ直したし、教科書もかなり片付いたと思う。
後ろにあった黒板のチョークの跡を消していたとき、黒板の裏に小さな落書きがたくさんしてあるのを見つける。
『H21 卒業しました〜! あやか、えみり、ゆいな』『H27 ↑この落書きをした人と同い年になりました! みんなこうやって卒業していくんだなぁ……改めて、校舎、先生、みんな、ありがとう!』
卒業した人達のコメントだ……。
すごい……。
各年代ごとに一言ずつ誰かしらが書いているみたい。
1番古いのだと……H19……!
「志帆、何してんの?」
不思議そうに寄ってきた亮くんに落書きのことを伝えると、キラキラと目を輝かせて黒板の裏を覗き込む亮くん。
「うお、すげー!あ、これとか、絶対何人かで1文字ずつ書いてるだろ!エモいなぁ……仲良すぎじゃね?いいなぁ〜」
私はとりあえず、チョークの粉を消す作業を再開することに。
黒板消しを手に取り、黒板に滑らせながら、どうしてこのクラスが選ばれたんだろう、と考えを巡らせる。
天沢さん姉妹が、何か鍵になりそう……。
そんなことを思いながら、黒板消しをことんと置いた。
誰かから見られていることも知らずに。