学級崩壊デスゲーム
セカンドステージ 〜じゃんけん列車〜

1ターンめ

「っていうか、先生どこ行った?」
教室に戻って水筒のお茶を飲んでいたとき、なぎちゃんが不意にぽつりと呟いた。
「確かに……三上くんを撃ったのだって、先生だし……」
「なんでこんなことになっちゃったの……っ」
考え込む人、泣き出しちゃう人、ずっと俯いている人……反応は様々だった。
「あぁもう、めんどくせぇな!」
ドカッと教室の壁を蹴り飛ばす河合晴紀くん。
普段の彼は、面白いことを言って、みんなを笑わせてくれるのに……。
すごい変わりようにびっくりしてしまう。
いや、このゲームのせいで、みんな普段とは違うんだ……。
『みなさんお疲れ様です。セカンドステージに参りましょう』
セカンドステージは何をやらされるんだろう……。
途端にピリッと空気が張り詰める。
『……っとその前に。あの4人がどうなったのか気になりますよねぇ』
ニヤニヤと口角を上げるゲームマスター。
あの4人って……さっきの子達?
『では……ムービー、スタート!』
プロジェクターに映像が映る。
『やめろ……何する気だっ!』
この声は……浜崎くん?
怖い……何が起きるの……?
画面には浜崎くんしか映っていないけれど、もう1人誰かいるみたい……。
浜崎くんは、画角外にいるもう1人から逃げるように、ジリジリと後ずさりを繰り返している。
『来るな……来るなぁぁぁぁぁあ!!』
浜崎の絶叫の後、バンバンバンッと大きな音が3回。
「志帆、見ちゃダメ!」
私の視界はなぎちゃんの手のひらに覆い隠された。
「っ……」
見ないでもわかってしまう。
浜崎くんは……銃で撃たれて。……死んじゃったんだ、って。
「浜崎……」
「美空、元気だしな……」
美空は浜崎くんとよく仲良さそうに喋っていた。
なぎちゃんは、美空に優しく声を掛けながら背中を撫でている。
なぎちゃんはかっこいいな……私にはできない。
その後も3人の映像が流れてきたけど、耳を塞いで目を閉じていたら、いつの間にか終わっていた。
「っふふふ……くくっ」
え……?誰……?
こんなときに笑っているなんて……。
みんなも不安そうにキョロキョロと辺りを見回している。
「ふふふ、友情ごっこなんて、どうせこれから切れちゃうのにね」
くすくすと笑っていたのは……日比野くん。
「あぁ、安心して?僕はゲームマスターサイドじゃないからさ」
日比野くんはニコニコと微笑みながら、教室で飼っていたメダカの水槽を思いっきりひっくり返した。
バリンッ!バシャァァッ!
「きゃああああ!!」
メダカが水を求めてビチビチと跳ねる。
「うわ、きっも〜!日比野よくやる〜」
そう言って引き気味にそう口にする天沢さん。
「も〜南那ってば〜!」
爆笑しながら、箕輪飛鳥さんが天沢さんの肩を叩く。
それを見た日比野くんは、ちょっと眉をひそめて、小さくため息をついた……ように見えた。
すると、ゲームマスターが口を開く。
『派手にやりましたね。あとで片付けておきますので、そのままにしておいてください。それではセカンドステージを始めましょう。セカンドステージは3人組で行います』
私は、ぱっと美空となぎちゃんの近くに寄った。
2人もぎゅっと近くに寄ってきてくれる。
でも……薬師寺さんを1人にすることになっちゃう……。
不安げに彼女を見つめると、クールに微笑んだ。
「私は大丈夫だから……3人で組んで」
「……そっか」
なぎちゃんは真顔でそう答えると、私と美空の手を引いて、薬師寺さんから距離をとった。
「なぎちゃん……?」
「よく考えなよ、志帆」
なぎちゃんはぐるりと教室内を見渡す。
「28-4で、24でしょ?3人組ってことは8グループも作れるわけ。割り切れるんだから、薬師寺さんもどこかしらには入れるはずだよ」
薬師寺さんの方を見ると、ちょうど女の子2人組から声をかけられていた。
よかった……。
『皆さん全員組めたようですねー!』
ゲームマスターはチームの一覧を表示させる。


A 仲川このん、浅尾涼音、箕輪飛鳥
B 天沢南那、吉野優真、長嶋悠斗
C 四葉志帆、篠山美空、藍田なぎさ
D 河合晴紀、藤堂真生、堤亮
E 三日月隼人、横間響、横間奏
F 藤代煌、進藤司、吉田素晴
G 木村純太、北条蒼空、日比野裕樹
H 南條麻耶、齋藤柑奈、薬師寺和花


なるほど……。
じっと表を眺めていると、画面がスライド。
『セカンドステージは……じゃんけん列車』
じゃんけん列車って……あの?
あの、小学校のときによくやった遊び?
『みなさん、一度はやったことがあると思いますが、ルール説明を致しますね』
ゲームマスターの話したルールをまとめると。
普通のじゃんけん列車とほぼ同様。
じゃんけんをして、負けた人は勝った人の後ろにまわり、肩に手を置く。
それをどんどん繰り返していって、最初的に1つの列車をつくる……というもの。
だけど、今回は、1つの列車になった時点で1番後ろにいた人が脱落するシステム。
今3人組だから、1番前にする人、1番後ろにする人が重要になってくる。
全部で4ターン行う。つまり、4人脱落したらゲーム終了。
ターンごとに順番は入れ替えてもOK。
脱落者の出たチームは2人で続行。
「どうしよう……」
泣きそうになりながら私が口を開くと、なぎちゃんは力強く微笑む。
「1ターンめはあたしが1番後ろに行く。次は美空。その次は志帆って感じで、ローテーションしていこう」
なぎちゃんの提案に、こくりと頷いて同意する。
『それでは、皆様列車の形をお作りください!』
1ターンめは、私、美空、なぎちゃんの順。
『よーい……スタート!』
ちゃんとじゃんけん列車の曲が流れる。
始めにじゃんけんをするのは……Hチーム。
「負けない!!」
ギラギラと目を3角にしている南條麻耶ちゃん。
怖い……けど、なぎちゃんを助けたい!
「さいしょはグー、じゃんけんぽん!!」
私はチョキ、麻耶ちゃんはパー。
「や、やったぁ!なぎちゃん、美空っ!!」
これで、1番後ろには齋藤柑奈ちゃんがつくことになるから、なぎちゃんは助かる!
「死にたくない、助けてぇ!勝って、お願い四葉さぁんっ!!」
ポロポロと涙をこぼす柑奈ちゃんに、罪悪感が込み上げる。
「志帆、後ろのことはいいから!次の相手を見つけて!」
なぎちゃんのアドバイスを聞き、慌てて相手を探す。
今4グループしかないから、絶対にあと1つはあるはず……。
「四葉!やろうぜ」
声をかけてくれたのは、吉田素晴くん。
Dチームとくっついてるみたい。
「さいしょはグー、じゃんけんぽん!」
私はグー、吉田くんはパー。
「よっしゃあ!」
「素晴、ナイスー!」
1番後ろの堤亮くんが元気に笑う。
そっか。これで彼の命は助かったんだ……。
そっと堤くんの肩に手をのせる。
堤くんと私だと、結構身長差があるから、ちょっと背伸びしないと肩に手が届かないや……。
「ごめんね、大丈夫?」
堤くんはそっと膝を折って、少し屈んでくれた。
「ありがとう、堤くん……」
「堤じゃなくて、亮って呼んで。なんかあったら、すぐ言ってな!」
八重歯を覗かせて、ニカッと笑う堤くん、もとい亮くん。
頼りになるなぁ……こんな状況でも、落ち着いていられて、フォローもできるのすごい……。
最後は吉田くん対箕輪さん。
私たちの列車の最後尾は柑奈ちゃんで、箕輪さんの列車の最後尾は仲川このんさん。
「飛鳥ぁ、マジ絶対勝ってねー?」
「まぁ頑張るわ〜」
仲川さんは、怖くないのかな……。
柑奈ちゃんはすごく怯えているけど……。
「さいしょはグー、じゃんけんぽんっ!」
吉田くんはチョキ、箕輪さんはチョキ。
あいこか……。
みんながほっとため息をつくのがわかる。
「あいこでしょっ!」
吉田くんはチョキ、箕輪さんは……パー。
「ちょっ……飛鳥!?」
「あ、ごめーん。負けちった」
ヘラヘラと笑う箕輪さん。吉田くんも絶句している。
そうか……これは、すごく残酷なゲームだ。
もし吉田くんが負ければ、仲川さんは助かるけれど、柑奈ちゃんが脱落する。
どちらにせよ、先頭の人は、最低でも1人には恨まれてしまう。
仲川さんは顔を真っ青にしてうろたえている。
「ねぇどうしよう……死にたくないよ、助けてよ涼音」
浅尾涼音さんに助けを求める仲川さん。
「え〜?すず、どうにもできないよぉ」
浅尾さんは、垂らした横髪をくるくると指に巻き付けながらニコッと微笑む。
「てゆーかぁ、ちょーどいいんじゃない?正直、このちゃん、最近自分勝手すぎてたし」
「それは言えてる。このん、アンタ、この前のプリだって、小顔にしたいからって後ろ行ったでしょ」
次々に始まる、仲川さんへの悪口。
「でもそれはっ……!」
『そこまででーす。脱落者の仲川このんさんは、別室へご案内しまーす』
軽い口調のゲームマスターの指示で、教室に仮面を被った人達が入ってくる。
「いやぁぁぁぁ!」
……っ、これ、ひどい……。
仲間だと思っていた人達から裏切られて、死の切符を渡される。
どんなに苦しいことだろう。
『それでは続いて2ターンめ〜』
ゲームマスターの声で遮られ、私は考えるのをやめた。
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