学級崩壊デスゲーム

4ターンめ

『それでは、運命の4ターン目に参りましょう』
ラストは私、美空、なぎちゃん。
1ターンめと同じ順番だ。
なぎちゃんはぎゅっと拳を握りしめると、私と美空に向かって言った。
「志帆、美空……大好きだよ。このゲーム、絶対生き残って……3人で今度遊びに行こっ」
可愛い八重歯を見せて笑うなぎちゃん。えくぼを見せて微笑む美空。私も泣きそうになるのを堪えながら2人に抱きついた。
「よし……いこう」
薬師寺さんが、私の最初の相手か。
「やりましょう」
無表情で淡々と拳を出す薬師寺さん。
薬師寺さんは何を出す……グー?パー?チョキ?
不安が込み上げてきて、泣きそうになる。
もしずっと負けたら、なぎちゃんは……。
「志帆、落ち着いて!」
美空が私の肩をとんとんと叩く。
たったそれだけで、すぅっと心が落ち着く。
「美空ありがとう」
落ち着いて深呼吸をし、薬師寺さんと向き合う。
「さいしょはグー、じゃんけんぽん!」
私はチョキ。薬師寺さんは……グー。
「……っ!」
それを見た瞬間、一気に背筋が凍りついて。
悪寒が身体中を駆け巡るような感覚に陥る。
「やったぁ!ありがとう、和花ちゃん!」
いつの間にか名前で呼びあっているHチーム。
柑奈ちゃんが嬉しそうに飛び跳ねている。
その姿を見ていると、なんだかイライラしてきた。
柑奈ちゃんは吹奏楽部で、アニメオタクだ。推しのグッズも大量に集めていたし、教室では陰のオーラを放ちまくりながら、同じアニオタの麻耶ちゃんと、アニメの話をして盛り上がっていた。
……なんでこんなやつが助かって、なぎちゃんが危険にさらされなきゃいけないの。
ドロドロした真っ黒い感情がのしかかってくる。
あんたなんか、別にクラスに必要とされてないのに。あんたなんかより、なぎちゃんの方が明るくて可愛いし、モテるのに。
泣きそうな顔を見られたくなくて、咄嗟に俯く。
「四葉さん?」
私の顔を顔を覗き込んだ、相手が悪かった。
目の前に怒りの対象がいて、今にも爆発しそうな感情を抱えていたから。
反射的に、薬師寺さんの頬を平手打ちしてしまった。
パシンッ、と小気味のいい音が響く。
周りが何事か、とこちらを見る。
「志帆!!」
ガッと肩を掴まれて我に返った。
"後悔先に立たず"というのはこういうことか、と今更ながら思う。
「ゲームマスター!ターンの途中で順番を入れ替えることは可能ですか!?」
なぎちゃんの言葉に反応するように、モニターにゲームマスターが映る。
『ルール状はなしですが……まぁ、面白いものが見れたのでね。特別に許可しましょう』
「志帆、落ち着きな」
私は真ん中に入れられて、先頭は美空に。
「任せてよなぎ!」
ニコッと笑った美空に、涙が込み上げてくる。
「和花ちゃんっ!大丈夫!?」
慌てて駆け寄ってくるHチームの2人。
「大丈夫。心配しないで」
微笑んだ薬師寺さんに、腸が煮えくり返るような気分になる。
ぐっと唇を噛んでいると、亮くんが近寄ってきて、私の頭をポンポンと触った。
「そんな世界が終わったみたいな顔すんなよ。きっと篠山が勝ってくれるよ」
「ありがとう、亮くん……」
「そうだよ志帆!私絶対勝つから!!」
美空……普段こんなこと言うタイプじゃないのに。
なぎちゃんは、口を横に引き結んだまま、まっすぐ前を向いていた。
ごめんなさい。そんな顔させて。嫌な思いをさせて。悲しい思いをさせて。
「志帆、もしあたしが死ぬとしても、志帆のせいなんかじゃないからね」
なぎちゃん……。
次の相手は長嶋悠斗くん。
「さいしょはグー、じゃんけんぽんっ」
美空はチョキ。長嶋くんは……。
「いよっしゃぁぁあ!」
「悠斗ナイスー!」
……っあ。
「ごめん……なぎ、ごめん……」
呆然と立ち尽くす美空に、なぎちゃんは顔色を変えた。
「……っ、何やってんのよあんたたち!!」
っ、え?
普段のなぎちゃんとは全く違った声に表情。
「あたしの命がかかってんのよ!?」
なぎちゃんの目は血走っていて、いつものなぎちゃんとは完全に異なっている。
怖い。
……初めてそんなこと思った。友達に対して。
自分の都合が良すぎて、笑える。
私って、こんな人間だったんだ。
自分が安全圏にいるときには、死を目の前にした友達に対して、こんなことを思える人だったんだって。
人間の本性って、死の淵に立たされたときだけにわかるものじゃないんだ。
無言で俯いていると、最後のじゃんけんが始まる合図がした。
相手の1番後ろは北条くんで、1番前は進藤司くん。
「さいしょはグー、じゃんけんぽん!」
長嶋くんはパー。進藤くんは……グー!!
「っしゃぁぁぁぁあっ!!」
振り向くと、なぎちゃんが聞いたこともないような雄叫びをあげていた。
みんな目を丸くしてなぎちゃんを見ている。
「藍田って、あんなキャラだったか……?」
「いやぁ……違ったと思うけど……」
男の子たちがヒソヒソと話しているのも構わず、喜びを噛み締めている様子のなぎちゃん。
「なぎ……」
美空も、気まずそうに視線を下げている。
「あんたたちなんかより、長嶋の方がよっぽどマシ」
そう言い捨てると、なぎちゃんは私たち2人の方と真逆へスタスタと歩いていく。
「ねぇ、天沢たちのグループ入れてよ」
……っ!?
「え?すずはいいけどぉ……なぎさちゃんはいいのぉ?」
「いいよ、あんなやつら」
そう吐き捨てて、なぎちゃんは天沢さんたちのグループに入ってしまった。
天沢さんは相変わらず何を考えているかよくわからない表情をしていたけれど、浅尾さんはニコニコ笑っていて、自然に受け入れている。箕輪さんも口元は緩んでいるから、歓迎しているはずだ。
普段、天沢さんのグループに所属していたのは、天沢さん、浅尾さん、仲川さん、吉野さん、箕輪さん。
仲川さんと吉野さんは脱落してしまっているので、今は3人で固まっていたみたい。
美空の手をぎゅっと握ると、美空も握り返してくれる。
これからは2人なんだ。
空いた左手を見つめながら、握る手に力を込めた。
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