移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました

五話

 現場検証が終って数日後。片付けをしていいということなので、リリィは荒らされた部屋を片付けていた。もちろん、ユリスも一緒にだ。

 大きなものや重いものは魔法で簡単に片付けられる。だがやはり細かいものとなると手作業でやった方がむしろ早いこともあり、こうして二人で片付けを行っていた。

「すみません、ユリスさんにまで一緒に片付けてもらって……」
「いや、本当は女性のベリアに来てもらった方が良かっただろうけど、ベリアは昨日から出張でいないから。俺は隣だし今は一緒に住んでるから俺も一緒の方が安全でしょ。また何が起こるかわからないし、……ってごめん。そんな怯えされるようなこと言うべきじゃなかったな」

 相変わらず真顔だがその顔にほんの少しだけ後悔が滲み出ていて、リリィは思わず微笑んでしまう。

「ユリスさんて本当は優しい方ですよね。女嫌いだしいつも真顔だから勘違いされやすそうだけど、ちゃんと気をつかってくれるし。最初はもっと怖い人なのかなって思ってたんですけど、ユリスさんが直属の先輩で本当によかったです」

 そう言って嬉しそうに微笑むリリィに、ユリスは真顔のまま静止して、フイッと顔を背ける。

「あ、そう。それならよかった。俺、こっち片付けるね」
「あ、ユリスさん、そこはやらなくて大丈夫です!私がやるので……」

 ユリスが倒れた衣装ケースを持ち上げると、そこにはリリィの下着が散乱している。

(だから自分でやるって言ったのに!)

 うわ〜と両手を顔に当てて赤面するリリィをよそに、ユリスは下着の一つを指で掴んでしげしげと眺めた。

「へぇ、こういうのも履いてるんだ。意外。歓迎会の時は結構地味だったよね」
「ちょっと!何じっくり見てるんですか!変態!最低!さっきの言葉撤回します!ユリスさんはあっち!あっちを片付けてください!」

(歓迎会の時って、着替えさせた時に見てたの?やだ!いや介抱された側の私がいうことじゃないけども!)

 ユリスから下着をふんどり喚くリリィを見て、ユリスはほんの少し微笑んで後ろを向いた。だがすぐ真顔になってリリィに言われたスペースへ移動し片付けを始めようとしゃがみ、自分の手を見つめ静かにため息をついた。

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