移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
「俺はあの日仕事で中央棟に用があったんだけど、普段ほとんど行ったことのない場所だったから道に迷ったんだ。そしたらあんたたちの姿が見えて話が聞こえてきて。なんか胸糞悪い話だし、何より俺と似たような状況のあんたが気掛かりでその場から動けなくなっちゃって」

 二年後、研究課に総務課から移動してきたのがあの日の女性だとわかってユリスは驚いた。そしてつい気になって見ていたら、歓迎会で酔わされて潰れる様子が心配になりそのまま連れ帰ったのだった。

「きっと、同じような境遇のあんただから近寄ったり触れたりしても問題ないんだと思う」

 そう言って、ユリスはリリィの目の前に手を差し出した。

(え、握手?)

 リリィが不思議そうにその手を眺めると、ユリスはほんの少し微笑んで言う。

「俺に触れられるの、嫌?」
「……嫌、じゃ、ないです」

 ユリスの質問にそう答えると、リリィはユリスの手を見て自分の手を静かに差し出す。その手を、ユリスは優しく握った。

「俺も、あんたに触れるの嫌じゃない。やっぱり吐き気もしないし頭も痛くならない。それに、もっと触れたいな、って思い始めてる」

(えっ、それってどういう意味……)

 リリィの不思議そうな顔をユリスはじっと見つめ、口を開く。

「俺と、リハビリしない?」
「リハビリ?」
「そう、リハビリ。俺は女が嫌い、あんたも男が本当は苦手なんでしょ。あれからずっと彼氏はいないしそういう飲み会にも参加しない、もう誰とも付き合うつもりはないって聞いた」

(ど、どっからその情報を!?確かに男の人は苦手だし、これからは一人で生きていくって決めてたけど……)

「俺、こんなだけど情報収集は得意なの。で、俺たちは似たもの同士だ。でもお互い触れ合うのは嫌じゃない。だったら二人で恋愛ごっこしてリハビリしてみようよ」

 ユリスの提案にリリィは混乱する。確かに似たもの同士だし、正直ユリスに触れられて嫌な気はしない、むしろリリィもユリスにもっと触れてほしいと思ってしまっている。

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