移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
「で、でも、リハビリをしたとしてそれがもしも本気になってしまったら?片方だけが本気になってしまったら、それこそもう二度と立ち直れなくなってしまうんじゃ……」

 リリィがそう言うと、ユリスはリリィの手に自分の指を擦りよわせた。優しく、思いやるような手つきだがその中にも何か熱がこもっているような触り方だ。その仕草にリリィはどきりとする。

「俺としては、本気になってくれても構わないしそうなってくれたら嬉しいんだけど」

(は?え?それどういう意味?)

 さらに動揺するリリィをじっと見つめながら、ユリスはさらにリリィの手に優しく指を擦りよわせる。

「で、どうする?リハビリ」

 答えるまでこの手は止めないという無言の気迫を感じ、リリィは仕方なく決意を固めた。

「わ、わかりました。リハビリ、やります」

 リリィの答えにユリスは満足げに微笑むと、触っていたリリィの手にそっと口づけた。

(は、はいっ?何してるの!?)

 そのままユリスはリリィの手首に唇をそっとつけ、リリィの腕の袖を捲りながらあらわになった腕へとどんどん口づけを進めていき、くすぐったいのと恥ずかしいのでリリィは身悶える。

「ちょ、ちょっとユリスさん!何やってるんですか!」

 リリィが抗議の声をあげると、ユリスは不思議そうな目でリリィを見つめる。

「だってリハビリとはいえもう恋人同士でしょ?それに俺、もっとあんたに触れたいって言った。嫌なら言って、ちゃんと止めるから」

 そう言ってまたユリスはリリィの手や腕にキスをし、どんどんリリィとの距離を縮めていく。そしていつの間にかユリスの顔はリリィの目の前にあって、ユリスの手はリリィの頬に静かに触れ、ユリスの指はそのままリリィの唇を優しく撫でた。そしてユリスはリリィの唇を見つめてそのまま口づけようとして……。

「ま、待ってください!これ以上は!まだダメです!」

 リリィの両手がユリスの口元を塞ぎガードしている。ユリスは名残惜しそうにリリィから離れ、リリィの手もユリスの口から離れた。

「ダメだったか、残念」
「残念、じゃないですよ!急に進めすぎです!もう!私、自分の部屋に戻りますから!」

 顔を真っ赤にしてリリィは叫び、勢いよく自分の部屋へ戻っていった。リリィのいなくなった居間でユリスは少しの間静止していたが、自分の両手を見つめながら盛大にため息をついた。

(はあ〜あっぶねぇ……リリィが止めなかったら襲ってたな)

 ドクドクと高鳴る心臓、内側から湧き上がる熱を感じてユリスは胸が苦しくなり、先ほどリリィの唇に触れた指で自分の唇にそっと触れる。

(こんななって、まるで十代のガキかよ……)

 ユリスの盛大なため息が居間に響き渡った。


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