移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
「ほ、本当に申し訳ありませんでした」

 目覚めてからユリスと話をして状況を把握したリリィは、昨夜のうちにユリスが洗濯しておいてくれた魔法省の制服を着てローブを羽織り、玄関先で深々とお辞儀をする。

「同じ寮だったからよかったけど、あんた気をつけた方がいいよ、色々と」

(全くもってその通りでございます)

 リリィはただただ頭を垂れる。まさか異動先初日、しかも自分の歓迎会で記憶をなくすほど飲みすぎたあげく先輩の前でゲロを吐き、そのまま介抱されてしまうとは。頭が猛烈に痛いのはきっと二日酔いだからなだけではないだろう。

 ガチャリ、とドアを開けふと部屋番号を見てリリィは両目を見開く。そのリリィの様子に、ユリスは首をかしげた。

「どうかした?」

「あ、いえ、あの、部屋が……まさかの隣でした」

 こんなことがあるのだろうか。すぐ隣が自分の家だと知ってぽかんとするリリィに、ユリスは少しだけ口の端を上げて言った。

「へぇ、それじゃ今日は出勤するのに朝の支度慌てる必要なくてよかったじゃん」







 魔法省。そこは国のありとあらゆる魔法に関する知識と技術が集結された場所。国家認定された一流の魔法使いたちが働く場所でもある。



「おっはよー!昨日大丈夫だった?リリィちゃんてば気づいたら姿がなくて、ユリスさんもいなかったからもしかしてもしかするとかな~って思ったんだけど」

 朝から元気にきゃっきゃとはしゃいでいるのは、同僚のベリアだ。ツインテールにしている薄紫の髪が楽しそうに揺れる。小柄かつ可愛らしい顔で守ってあげたくなるような見た目だが、性格はずいぶんと活発的だ。

「あ~いや~」

 リリィが言葉を濁すとベリアはなになになに?と楽しそうに詰め寄ってくる。

「お、リリィちゃんおはよ。昨日大丈夫だったか?ユリスにお持ち帰りされてただろ」

 背後から声がして振り向くと、先輩のエイルがいた。紺色の短髪にエメラルドグリーンの瞳で背が高くスラリとしている。

「え~やっぱりお持ち帰りされてたの?やだやだ~早く教えてよ~」

「いや、でもユリスのことだからどうせ何もなかっただろ。ユリスだから大丈夫かと思って任せておいたけど」

 ベリアが大はしゃぎするとエイルが半笑いで言う。

「あ~ユリスさん女に興味ないですもんねぇ。他部署の子がいくら誘惑しても完全スルーですもん。私と話をするときもうん、とかへぇ、とか一言二言だけだし。女性と近い距離で話してる所なんて見たことないかも」

(本当に女性に興味ない人なんだ?ってことは男性に興味があるとか?)

 移動してきたばかりでみんなの性格が全くわからないリリィは、ベリアとエイルの話を聞きながらふむふむと考えていた。

「なんか俺の悪口が聞こえたような気がしたんだが」

 声のする方を向くとユリスがあくびをしながらやってきた。

「おう、お前昨日はちゃんとリリィちゃんを送り届けたみたいだな」

 エイルがそう言うとユリスが真顔でリリィを見る。

(ユリスさんていつも表情がないんだ)

 昨日もずっと真顔だったので怒らせていたのかと心配になっていたが、そうではないようでホッとする。

「ああ、俺の部屋に連れて行って一緒に寝たけど」

 ユリスの言葉に一瞬その場が静寂に包まれる。

「はぁー???」

「え、え?待って、どゆこと?ユリスさんそれってどういう意味で」

 驚くエイルとベリアに、ユリスは真顔で答える。

「どういう意味って、言葉そのままの意味だけど」

 そう言ってちょっとだけ口の端を上げながらリリを見つめ言った。


「ね?」
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