移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました

七話

「で?お前らどこまでいったの」

 エイルがユリスに聞く。そこは研究棟の屋上で普段滅多に人が踏み込まない場所だが、ユリスは念には念を重ねて防音魔法を施し誰にも会話が聞かれないようにしていた。

 ユリスとリリィがリハビリと称して付き合いはじめてからだいぶ経ったとある日。二人の過去について詳しいことまでは流石に話さないが、リリィに触れてもユリスの体調に変化が起きないこと、リリィと付き合い始めたことをユリスはエイルに話した。もちろん恋愛ごっこという名目は内緒だ。するとエイルは冒頭の質問をユリスにした。

「……キス未遂はした。まだ早いって止められたけど」
「ほ〜ん、キス未遂ね」

 エイルはにやにやとした顔でユリスを見ると、ユリスは真顔のまま少しだけ眉間に皺を寄せる。

「リリィが嫌がることはしたくない」
「でもお前、今まで女がからっきしダメだったのに急にこんなんなったんだから抑えが効かなくなったりしないのかよ」
「……正直、きつい。リリィが止めなければそのまま襲ってたかも」

 ユリスの言葉にエイルはヒュ〜と口笛を吹く。いや、口笛って古……とユリスは思ったが言わないでおいた。

「別にリリィちゃんだってお前に触れられて嫌な顔とかしないんだろ。だったらちょっと強引にでもキスしてみればいいじゃねぇか。案外そのまま最後までいけるかもしれないし」
「いや、だからリリィが嫌がることはしたくないんだって」
「嫌がってるわけじゃなくて心の準備ができてないだけだろ。案外そういう子はそのままずるずると先延ばしにして本人もどうしていいかわかんなくなったりするかもしれねぇぞ。だったらこっちからさりげなくエスコートしてやるのが筋なんじゃないか」

 みんながみんなそういうわけではないのだろうが、確かに、リリィのあの感じはずるずると先延ばしにしそうな勢いだ。エイルの言うことも一理あるなとユリスは思う。

「あと、あのことはちゃんと伝えたのか?」
「……いや、俺が言うことではないと思って」
「付き合う前だったらそうかもしれないけどよ、今はむしろお前から伝えるべきだろ。そうじゃないと後々知った時にあの子が勘違いして傷つくぞ」

 エイルの言葉にユリスはまた真顔のまま眉間に皺を寄せた。

「……そうだな」

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