移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
ユリスとリリィはエデンに言われた通りに帰路についている。寮までの道はさほど遠くないが、今のリリィにはなぜかとても遠く長く感じられた。

「あの、ユリスさん、エデンさんの言っていたことって、昨日ユリスさんが言おうとしていたことなんですか?」

 リリィがそう聞くと、ユリスはいつもの真顔でリリィの顔を見てから静かに頷いた。

「本当はリリィが第一部門に慣れた頃に部門長から話をする予定だった。でもリリィの部屋が荒らされて俺たちもこういう風になって、部門長は俺から伝えた方がいいだろうって判断した」

 ユリスは立ち止まり、リリィの瞳を真剣に見つめている。

「実は……」
「リリィちゃん」

 ついにユリスが話始めようと口を開いたとき、突然背後からリリィを呼ぶ声が聞こえた。

 驚いたユリスとリリィは声のする方を向く。するとそこには一人の見知らぬ男が笑顔で立っていた。

 緩くウェーブのかかった金色の髪に若草色の瞳をしたイケメンだ。リリィよりも少しだけ年下だろうか。白いローブを羽織りその胸元には何かの紋章が付いていた。

(誰だ?あの紋章、どこかで見たことが)

 ユリスがそう考えていると、その男はユリスを見て明らかに嫌そうな顔をする。だがリリィを見てすぐに笑顔になった。

「リリィちゃん、久しぶり」

 リリィは男にそう言われたが誰なのかさっぱり検討がつかない。

(えっと、どこかで会ったことあったかな?あるならこんなイケメン忘れるはずないんだけど)

「すみません、どちら様でしょうか?」
「忘れちゃったの?僕のこと。悲しいな、僕はリリィちゃんのこと一度も忘れたことなかったのに」

 男は心底悲しそうな顔をするが、リリィにはやはり誰なのかさっぱりわからない。リリィが首をかしげて困った顔をしていると、ユリスが男を睨みながら口を開いた。

「あんたがリリィの部屋を荒らしたりデータベースに不法アクセスした人間か?」

 ユリスの質問にその男は冷めた視線を送りながら返事にならない返事をした。

「ねぇリリィちゃん。僕と離れている間にそんな男がリリィちゃんの横にいるのおかしくない?リリィちゃんの横には僕がいるはずなのに」

 男の言葉にリリィはゾッとする。何を言われているのかもわからないしそもそも誰なのかもわからない。

< 26 / 103 >

この作品をシェア

pagetop