移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
「本当にわからないんだね、それじゃヒントをあげる。これ、なーんだ」

 その男が手に持っているものをリリィたちに見えるようにすると、リリィはそれを見てすぐに何かに気がついた。

「それは……私が小さい頃にいた施設のバッジ……その髪色と瞳……まさか、あなたレインくん?レインくんなの?」
「せいかーい!やっと思い出してくれたんだね!よかった」

 リリィにレインと呼ばれたその男は心底嬉しくてたまらないという笑顔になった。

「知り合い?」

 ユリスがリリィに聞くと、リリィは少し困ったような顔をした。

「知り合い、と言いますか、育った施設で一緒だった男の子なんです。二つ年下で弟のように面倒をみていました。仲がよくていつもみんな一緒に過ごしていて。でもこうして会うのは私が施設を出て以来ですけど……」

「へぇ……」

 ユリスはレインを少し睨みつけて警戒する。リリィにしてみれば施設を出て以来の再会なのに、相手はさもずっとリリィを見ていたかのような口ぶりだ。

(多分、こいつが部屋を荒らした犯人だな、データベースに侵入したのも)

「リリィちゃん、ずっとこうして話をしたかったんだ。探すのに苦労したよ。って言ってもリリィちゃん自体じゃないけど。リリィちゃんのことはいつも見てたし」

 レインの言葉にまたリリィはゾッとする。いつも見ていた?それは一体どういうことだろう。

「一体何が目的だ」
「僕は今リリィちゃんと話しているんだ、あんたは関係ない、邪魔しないでくれる?リリィちゃん、僕たちは赤い雫を探しているんだ。どこにあるの?リリィちゃんの部屋を探しても見つからないし、第一部門でもう回収したのかと思ったけどそうじゃないみたいだし。君の魔力検査もまだちゃんと行っていないみたいだね」

 リリィはレインに何を言われているのかさっぱりわからない。

(赤い雫?それに魔力検査って何のこと?)

 戸惑うリリィにレインは怪しげに微笑んでユリスを見る。

「あぁ、研究課はリリィちゃんにまだ何も教えてあげていないんだ?かわいそうに」
「レインくん、さっきから一体何を言っているの?」

 レインはリリィの顔を見てにっこりと笑った。

「知りたい?大人しく僕と一緒に来てくれれば全部話してあげるよ。もちろん赤い雫も一緒に持ってきてね」

(赤い雫って何?一体何のことを言われているのか……)

 リリィはそう思ってふと何かに気づき、両目を見開いて両鎖骨の真ん中辺りに手を置き制服の上から握りしめる。それを見てレインは嬉しそうに笑った。

「リリィちゃん、持ってるんだね?」
「お前、さっきから一体何を言ってる!」

 ユリスが険しい顔でそう言いいながらリリィを庇おうとしたその時。レインの顔がユリスの目の前にあった。

「さっきからお前は邪魔なんだよ」

 その一言が聞こえた瞬間、ユリスの目の前に爆発が起きた。ユリスは爆風と共に吹き飛ばされ、そのまま近くにあった壁に激突する。

「ゲホッゴホッ」

 砂埃が風にまい、ユリスが咳き込みながらゆっくりと立ち上がって周りを見渡すと、そこにはリリィの姿もレインの姿も見当たらなかった。


「リリィ……リリィー!」

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