移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
『……ね、ごめんなさいね、リリィ。あなたをこれ以上巻き込むわけにはいかないの。これはあなたに託すわ。もしもこれが悪い人の手に渡ってしまった時は、あの呪文を唱えて。そうすればこれがあなたを、全てをきっと守ってくれるわ。愛してる、リリィ』

(おか、あ、さん……?それに、隣には、おとうさん、も……)

 フッとリリィは目を覚ました。視線の先には天井が見える。

(あれ?私、一体何を……)

 そうしてゆっくり起き上がってから、自分の体を拘束する拘束魔法の束に気づいた。それから、近くの椅子に座って自分を嬉しそうに見つめている一人の男にも。

「……レインくん!どうして!」
「おはよ、リリィちゃん。よく眠れた?うなされてたみたいだけど」

 フフッと微笑むレインは美しい顔立ちなのにどことなく恐ろしい。

「ここはどこ?どうして私は拘束されてるの?……ユリスさん!ユリスさんは!?」
「……なんであの男のことなんか心配するの?リリィちゃんはそんなこと心配しなくていいのに」

 静かにため息をついてレインはつまらなそうに言った。リリィは拘束魔法を解除しようとするがリリィの魔法が発動しない。それを見てレインは楽しそうに笑って言った。

「無駄だよ、この部屋は僕以外の魔法は発動しないように仕組んであるから」
「どうして……あなた一体何が目的なの?赤い雫って一体……」

 そう言ってから、リリィは自分の首にかけていた大切なネックレスが無いことに気づく。魔法省の制服のボタンが胸元ぎりぎりまで開かれ、そこにあるはずのネックレスが無くなっていた。それは両親からもらったオニキス色の石が一粒ついたネックレスだ。

「あれはもう回収したよ。君がずっと大切に隠し持っていたんだね」
「どうして!あれは大切なものなの!返して!」
「だめだよ、僕たちはずっとあれを探していたんだから。ようやく手に入れることができた。でも、赤い雫のはずなのにどうして真っ黒なんだろう。魔力だって全然感じられないし。何か秘密があるの?」

 レインはそう言ってリリィの顎に手を添え上を向かす。リリィを見つめるレインの顔は愉悦に歪んだ顔をしている。

「あれはただのネックレスよ!何も知らないわ!返して!お願い!」
「返してほしい?返してほしいなら僕の言うことなんでも聞いてくれる?聞いてくれるなら考えてあげてもいいけど」

 そう言ってレインはリリィの顎に添えていた手をゆっくりと下に降ろしていく。人差し指でゆっくりゆっくりとリリィの首を這わせ、ボタンが止まっている場所まで到達した。

「レインくん、何を」
「僕は小さい頃からずっとリリィちゃんのことが好きだったんだよ。リリィちゃんだって同じだと思ってた。なのにリリィちゃんは僕を置いて先に施設を出て行ってしまった。悲しかったな」

 そう言ってレインは止まっているボタンを指で楽しそうに弄ぶ。レインのその様子にリリィは青ざめ、レインの指がボタンを外してしまう、その時だった。

「リリィ!」

 突然部屋に魔法陣が浮かび上がり、ユリスの姿が現れた。



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