移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
 リリィがハイルを睨みながら目の前に両手を翳すとハイルの周りに竜巻状の風の刃が巻き起こる。だがハイルは手を一振りかざしただけで風の攻撃は消滅した。そしてハイルは冷ややかな瞳でリリィを見つめる。

「っ!」

 リリィは一瞬で皮膚を切り刻まれていた。リリィの腕や足、さまざまな場所から血がボタボタと床に流れ落ちる。

「リ、リィ……!」
「お前のような小娘ごときが私に楯突くことができるわけがなかろう。赤い雫のことを聞かなければいけないからな、殺しはしない。ここで何も吐かないというのであれば私の屋敷に連れ帰ってどんな手を使ってでも吐かせてやる」

 ハイルの言葉が引き金になったかのようにリリィの血だらけの体が拘束魔法で拘束され、浮かび上がる。そのままリリィがハイルの元へ運ばれそうになったその時。

「させるか!」

 ハイルの目の前に爆発が起き、リリィの浮遊が止まる。だがそのままリリィは落下していった。

(床に、落ちる……!)

 両目を瞑ったリリィは、地面にぶつかることなく何かに抱えられた感覚で目を開けた。そこには、リリィの体を抱えるユリスの姿があった。

「ユリスさん!」
「ごめん、手こずった。リリィ、こんなに傷ついて……」

 リリィの体の傷と血を見てユリスは悲痛な表情をし、治癒魔法をかける。

「ふん、私の魔法を打ちやぶったとはなかなかだな」
「俺たちのことも忘れてもらっちゃ困りますよ、長官殿」

 爆発を回避したハイルが苦々しく言う視線の先にはユリス同様魔法を解除し立ち上がっているロベリオと、気絶しているエイルとベリアを壁に寄りかからせて座らせているエデンがいた。

「貴様ら、上級魔法が使えると聞いていたがまさか上級魔法以上が使える特級魔法士か……!」
「手の内は完全には明かさないのが基本です。……それよりも、なぜあなたがここにいてこんなことをしているのかお聞きしたいのですが。先ほどのリリィの話も含め」

 エデンが険しい顔でハイルに尋ねる。エデンもロベリオも既に臨戦体制だ。ユリスはリリィをゆっくりと床に下ろし、自分の背に隠した。

「ふ、ふははは。面白い。特級魔法士が三人か。どうせならお前たちの魔力ももらうとしようじゃないか。おっと、その前になぜ私がここにいるか、だったね。冥土の土産に聞かせてあげよう」

 ハイルは気味の悪い笑顔を浮かべながら話し始めた。

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