移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
「ほおう、さすがは特級魔法士と言ったところか」

 ハイルが目を細め見つめる先には、防御魔法に囲まれたユリスとリリィ、エデンにロベリオがいた。エデンが宙に浮き手をかざすとハイルに大きな落雷が起きる。さらにロベリオが片手を振ると宙に大きな氷の刃が出現し両側からハイルのいる場所に突き刺さる。だがハイルは防御魔法でそれらを防ぎ、また光線を放つ。

 ユリスが両手をハイルに向けると地面から土でできた竜が出現しハイルを食らう。だがハイルは土の竜を内側から破壊し脱出した。すかさずユリスがハイルの頭上から光の球を直撃させるがそれもまたハイルは防御した。
 そんな魔法の攻防戦が途切れることなく続けられていく。

(な、に……この光景……このままじゃ、消費戦になってしまう)

 目の前に繰り広げられる魔法の攻撃にリリィは唖然とするしかない。だが、どちらも相手に傷をつけることはできず拮抗している。このままこの状態が続けば魔力を消費し先に尽きた方が負けるだろう。そして恐らく、魔石の魔力を獲得して生きながらえてきたハイルの魔力は尋常を超えている。

  何時間戦っていただろうか。ピシッ!と音がして、ついにユリスの防御魔法に亀裂が入り始める。さらにエデンやロベリオの防御魔法にも亀裂が入り始めていた。

(このままじゃ……ユリスさんたちが危ない!)

 リリィはハイルが片手に握りしめたままの赤い雫を見つめ、静かに深呼吸した。震える両手を握り締め、リリィは両目を閉じ意識を集中させる。

(お母さん、お父さん、どうか私に勇気をください。みんなを助けたいの)

「我、その尊き貴石に命ず。その力を消滅させその時を永遠に止めたまえ」

 一語一句間違えないよう、リリィは全身全霊を込めて詠唱する。

魔石破壊(ルディべアウプストラ)

 リリィが詠唱した瞬間、赤い雫が真っ赤に輝く。その輝きにハイルは目を見開き喜びに満ちた表情をした。

「おお!まさか魔力が発動したか!」

 だが次の瞬間、赤い雫に亀裂が入り、パキィンと音がして粉々に砕け散った。その光景に、その場の一同が目を奪われ沈黙する。

「……な、なぜ、なぜだ!?赤い雫が、赤い雫が!……ガッ!?」

 突然、ハイルの体がシワシワになって収縮していく。まるでどんどん乾涸ひからびていくような、ミイラにでもなるようなそんな状態だ。

「き、さま……いっ、た、い……な、にを……」

 窪みきった両目でリリィを見たハイルは、そのまま真っ逆さまに地面に落ち、そのまま粉々に砕け散った。


「……終わったようだな」

 エデンが息を切らしながらつぶやく。ロベリオもユリスも同様に消耗した顔をして目を合わせうなづいた。そしてユリスはリリィの方を向いて慌てて走り出した。

「っ!リリィ!」

 緊張の糸が切れたのだろうか、気を失ってその場に倒れ込むリリィをギリギリでキャッチし抱き止める。
 
「リリィ!しっかりしろリリィ!」

(名前を、呼ばれてる……?その声は、ユリス、さん……?)

 ユリスの声を聞きながらリリィの意識は遠のいていった。

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