移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
 朝礼が終わり、リリィはユリスと共に研究棟の敷地にある庭にいた。そこにはありとあらゆる薬草が研究用に育てられている。

「ここにあるものは全て初級~中級魔法の補助に使える薬草だ。劇薬はここにはないから安心していい」

 ユリスに説明されながらリリィは目の前に表示される薬草一覧のウィンドウを眺めていた。ウィンドウは魔法で目の前に現れ、その時の状況に応じて自動で内容が表示される。
 リリィも魔法省に勤務できる位には魔法の知識も実力もそれなりにある。だが、研究としての薬草や魔法の使い方は初めてで知らないことばかりだ。

「俺たちの仕事は新しい魔法の構築や新しい薬草の発見、魔石の発掘だ。研究室にこもることもあれば、薬草や魔石を見つけるために出張もする。研究課でも時には騎士団に動向して戦いの補佐だってする」

 研究課の存在は知っていたが実際の業務がそんなに大変なことだとは知らなかった。てっきりひたすら研究をしているだけだと思っていたがそうではないらしい。

「まずはここにある薬草、あと保管庫にある魔石の種類と用途を全部覚えて。それが今週の宿題」
「は、はい」

(こんなに大量な薬草、覚えきれるかな。魔石も覚えなきゃだし)

 リリィは目の前に表示されたウィンドを眺めながらう〜んと唸っていた。ふと、隣に人影を感じて横を見ると……。

(え、ひええっ!?)

 リリィの顔のすぐそばに、ユリスの美しい顔があった。ユリスもリリィのウィンドウを一緒に眺めているが、その距離はあまりにも近すぎる。

「なんか気になることでもあった?画面眺めて唸ってるけど」
「い、いえ!なんでもありませんっ!」

 リリィは飛び跳ねるようにユリスから離れると、ユリスは真顔でふーんと首を傾げた。

(なんでなんでなんで!?なんでそんな近いの!?女性と近くで話したりしないってみんな言ってたのになんで!?仕事だから?いやでもそれでもあれは近すぎでしょう!)

 リリィの様子を横目に、ま、いいやとユリスは真顔でそう言ってスタスタと歩きだした。慌ててついて行こうとすると、ユリスが急に振り向く。

「あ、腹減らない?そろそろ昼だし食堂行こう」
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