移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
チチチ……

 外から鳥の鳴き声がする。今は何時頃だろうか。重い瞼をゆっくりと開くと、目の前には黒い髪の男が静かに寝息を立てている。

(朝になったんだ……)

 体が重いし体中あちこち痛いような気がする。だが、目の前にいる男の寝顔を見てリリィは胸が高鳴り嬉しくなった。

(何だか不思議、異動日初日の飲み会で気づいたらこうしてユリスさんの部屋に寝ていた時を思い出しちゃった。あの時と同じ光景なのに、こんなにも違うなんて)

 ふと、昨夜のことを思い出してリリィはだんだんと顔が熱くなるのを感じる。

(ユ、ユリスさんてば普段はいつも真顔でそういうことに興味ありませんって感じなのに、あんなに激しいなんて……!しかも、もしかして嫉妬深いのかな?これだけ一緒に過ごしていたのにユリスさんのこと、わかっているようでやっぱりまだわからないや)

 じっとユリスのことを見つめていると、ユリスが静かに動き出しうっすらと目を開ける。そしてリリィの顔を見ると一瞬驚き、すぐに嬉しそうに微笑んだ。

「……はよ。起きてたんだ」
「おはようございます。私も今起きたばかりです」

 リリィがそう言うと、ユリスはふにゃりと笑ってリリィの髪の毛を優しく撫でた。そしてリリィにキスをし始める。それは一度では終わらず、何度も何度も繰り返された。

(えっ、ちょっ、待って、何でこんなに止まらないの!?)

「ちょっと、ス、ストップ!」
「あ、ごめん、なんかリリィの寝起きの顔見たらとまらなくなっちゃった」

 クス、と笑いながらユリスは謝るが、リリィは顔を真っ赤にしてユリスに背を向けた。そんなリリィの体をユリスは後ろから優しく抱きしめる。

「リリィ、ごめんてば。体、痛くない?」
「なんか気だるいしあちこち痛い気もしますけど、多分大丈夫です」
「そっか、よかった」

 後ろから安堵した声が聞こえてリリィは思わず頬が緩む。

「ねぇ、リリィ。俺たちまだ二人でデートらしいことしてないよね」

 確かに、ユリスとは一緒に生活を共にしていたが赤い雫の一件でバタバタしていたせいもあり、二人でどこかへ出かけたことはない。

「二人とも今日は休みだから、二人でどこか出かけない?朝ご飯食べにいくついでに」
「え、良いんですか?行きたいです!」

 リリィが思わず勢いよく振り返ると、ユリスはそんなリリィを見て嬉しそうに大声で笑い始めた。

「ははは、そんなに食いついてくるとは思わなかった。よかった、そうと決まれば支度して出発だ」

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