移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました

十八話

 魔法騎士団からの要請でリリィと共に魔法騎士団の本部へ出向いたユリスは、騎士団員と顔合わせをしている最中にリリィがとある男の顔を見て一瞬動揺したことに気づいた。

 その男もまた、リリィの顔を見て一瞬だが明らかに驚いた顔をしている。そしてそれからリリィの様子が明らかにおかしくなっていた。

 その男の顔には見覚えがある。二年前、仕事で中央棟へ出向いた時にたまたまリリィが男に酷い言葉を浴びせられ泣いていた姿を見かけた時の男だ。

(あれがリリィの元カレ、というか元婚約者……)

 気に食わない。大いに気に食わない。当時も聞こえてきた内容があまりにもクソすぎたためとんでもない男だと思っていたが、大事なリリィを傷つけた張本人だと思うと虫唾が走る。

 リリィがあの男と接触することがないように気をつけようと思っていたが、騎士団長に今後の方針を聞かされている間にリリィの姿が見えなくなっていた。

 慌てて団員から情報を得て魔法薬庫へ向かうと鍵がかけられている。嫌な予感しかしない、急いで鍵を無理やりあけて中へ入ると、そこにはリリィの腕を掴んで拘束し今にも口づけようとするあの男の姿があった。

(思い出すだけでも胸糞が悪い。リリィを掴んだあの手、切断して切り刻んでやりたい)

 騎士団本部の宿舎の一室、リリィの隣の部屋にいるユリスは昼間あったことを思い出して一人苦しんでいた。

 リリィに触れていいのは自分だけだ。そもそも過去にあの男がリリィと触れ合いそれ以上のことまでしていたということがユリスの胸をどこまでもドス黒くしていく。

 あげく、夜の反応がつまらない女だと別れ際にリリィ本人に言い捨てた男だ。あいつの大事な部分をバッサリと切ってしまいたいほどにユリスは怒りに満ちていた。

(リリィもリリィだ。どうして俺に言ってくれなかったんだ。あんな男と二人きりになるなんて許せない)

 リリィは最初、他の人に仕事を頼まれたと言っていた。恐らくあの男がリリィが一人きりになる時を狙っていたのだろう。もしくはそう仕組んだか。とにかくリリィが悪いわけではないことはわかっている。
 それでも、ユリスはリリィに対しても苛立つ気持ちを抑えられない。

(こんなにも一人の人間に執着するなんておかしいってわかってる。それでもリリィのことは独り占めしたいし誰にも渡したくない。ずっとそばにいないと気が済まない)

 過去の恋愛のせいなのだろうか。信頼していた人間に裏切られたせいでもう誰も信用できないと思っていた。
 そんな自分と同じような境遇のリリィと出会い、心を通わせることでリリィを心の底から大切に思うようになった。
 そして同時に、もう二度と裏切られたくない、失いたくないという思いが溢れてしまう。

(リリィが裏切るようなことをするわけがないってわかってる。それでもリリィが何かしらのきっかけで誰かに触れられたりするなんて許せない、気が狂いそうだ。しかもそれがあの男だなんて、殺してしまいたくなる)

 今すぐにでも隣のリリィの部屋へ押しかけてリリィを押し倒し、むちゃくちゃにしてしまいたい。だが今は出張中で二人は研究課第一部門の看板を背負って来ている。出張先でそんなことはできないしリスクが高い。
 それにリリィは今日一日でずいぶん疲れただろう。ゆっくり休んでほしい、そう思う矛盾した気持ちもあるのだ。

(あの男、ずっと俺たちのことを見ていたな。リリィと接触できる機会を伺ってたんだろう。何が何でも絶対にあの男からリリィを守って見せる)

 ユリスは固い決意を胸にベッドの中へ潜り込んだ。

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