移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
「あのユリスとかいう男と付き合ってるのか」
「……あなたに関係ない」
「付き合ってるんだな。あいつはやめておけ。あんな強い魔物と戦って勝てるなんておかしいだろ。異常すぎる」

 何を言っているのだろうか。ユリスのおかげで魔法騎士団は死者が出ることもなく無事で、魔物も討伐することができたのだ。感謝こそされるべきなのになぜこんな物言いをするのだろう。信じられないものを見るようにリリィはリゲルを見つめた。

「ユリスさんのおかげで魔物を討伐できたのよ。どうしてそんな失礼なこと言えるの」
「確かにあの男のおかげで俺たちは助かった。それについては感謝するさ。でも冷静になって考えてみろ、あの魔物をあっけなく倒したんだぞ。あんなにすごい魔力量、上級魔法士だからっておかしすぎるだろ」

 確かに、上級魔法士だとしてもあの魔力量はすごすぎるのだろう。だが、ユリスは実は特級魔法士なのだ。そのことをリゲルはもちろん魔法騎士団の誰も知らないし知らされることもない。特級魔法士であることはごく限られた人間しか知らないのだ。

 だからリゲルにそれを伝えることはできない。もどかしさを感じるリリィへリゲルはさらに口を開く。

「それに、お前にはあんな男は不釣り合いすぎる。お前何かに優れているわけでもないごくごく普通のありきたりな女だろ。そんなお前があんなすごい男と釣り合うわけがない」

 リゲルの言葉にリリィは両目を見開く。確かに、自分は何かに秀でているわけでもない、一般的な人間だ。そんな自分があんなにすごい人間の隣に当たり前のようにいたことが、言われてみればすごく不釣り合いのような気がしてくる。

 どうして気が付かなかったのだろう。あんなにすごい人だと知っていたら、自分はユリスに近づくことができただろうか?あまりの凄さに萎縮して目を合わせて話をすることすらできなかったかもしれない。

 たまたま寮の部屋が隣で歓迎会で助けてもらいそのまま居候して仲が深まりお互いに惹かれ合った。その過程があったからこそ今は当然のように付き合っているが、それがもしもなかったら?ユリスの隣にいられただろうか?自分はユリスにとって相応しい人間ではないのではないか?

 呆然とするリリィに、リゲルは言う。

「わかっただろ、お前はあいつとは釣り合わない。悪いことは言わない、あいつはやめておけよ。俺が言える立場じゃないのはわかってるけど、お前には軒並みな幸せを掴んでほしいって思ってるんだよ」
「……誰が誰に釣り合わないって?」

 リゲルの言葉を遮るように、背後から低く静かな声が響く。暗闇から人影が現れ、そこには真顔のまま冷たい視線をリゲルへ向けるユリスがいた。


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